11/9/1 香りのマーケティング、セミナー・アワード2011

だいぶ時間がたってしまい、報告が遅くなってしまった。「香りのマーケティング、セミナー・アワード2011」1)に参加してみたので、どんな感じだったのか、メモしておこうと思う(会場でノートはつけていたが、羅列的であり、時間がたってしまうと自分でも最重要事項が分からなくなってしまうので、ここに記事の形でupしておく)

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講演プログラム (日時:9月1日(木)14:00~17:15(受付開始12:00~))
セッション1 (14:05~14:50)2)
「香りマーケティング国内外最新動向」田島幸信氏3)(香りマーケティング協会理事長)
セッション2 (15:05~15:50)
「香りが創るストレスフリー社会」吉岡亨氏4)(高雄医学大学客員教授)
セッション3 (16:05~17:15)
「広がる香りマーケティングの可能性」 パネルディスカッション
小沢学氏:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
肥田不二夫氏:日本大学 芸術学部 教授
渡邊信彦氏:株式会社電通国際情報サービス

なおアワードは以下の商品が受賞した(9月1日 発表)
最優秀賞;「ヒノキ丸」:有限会社ベルマイン。優秀賞;「香りペーパー」:キヤノンマーケティングジャパン株式会社。特別賞(2社);「お香りらく」:株式会社大香、「あろま名刺入れ」:有限会社グリッタ。

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もっとも興味を持った話は「広がる香りマーケティングの可能性」 パネルディスカッションでの渡邊氏(電通)の話。スマートフォンの大衆への普及でAR技術、位置技術、クラウドデータベース等の技術が一気に生活を変え始めている。だがそこで伝えられている情報は?文字データであり、画像データであり、3Dデータであり、音声である。今後、最終的には香りが伝達、再現されるように期待されてゆくのではないだろうか?という話だ。そのためには匂いをデータとして送り発生させなくてはいけないのだが…。彼らは「香りをビジネスにしたい」「香りに注目させたい」としている。流行であり、ムーブメントが作りたい。そしてその渦中にいたいというメッセージを感じた。

だがこの話の本質的な解決のためには課題がある。匂いをデータ化し再現しなくてはいけないのである。技術シード無きままでの流行はあくまで一過性であり、生活のシフトだとかチェンジには繋がらない、と自分は思った。

ちなみに理事長の田島氏も「今後の展開」として上げていたのは、香りのTVの研究など。未知のステージが待っている(最近までNTTなども頑張っていた)。克服すべき課題としては
• 香りの言語化
• ベース化、要素臭化できないか?
• 香りの辞典のようなものを作り、要素の数値化をしたい
とのこと。

自分も関われる点があれば、関わってみたいのだが…

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1.香りマーケティング協会(セミナー・イベント情報)
2.Prolitec - Advancing Indoor Odor Control
Prolitec 日本総輸入代理店|マイクロフレグランス
Air Aroma - Scent Marketing, Diffusion and Fragrance Systems
エアアロマジャパン 公式サイト┃ air aroma japan official site
3.CiNii - 田島 幸信
特願2000-157248(特許1報見つけた)
4.CiNii - 吉岡 亨
(特許は発見できず)

香りの生成について調べたい

藤森先生1-3,a,bという東京農大の先生が香気研究をされている。

この先生の経歴は、東京教育大学(現在、筑波大学)大学院理学研究科修士課程修了、農学博士(北海道大学)、その後、日本たばこ産業株式会社(JT)にてタバコの微量(香気)成分に関する研究をされている。いくつか論文を発表されている。研究はタバコ中に存在する特殊香気成分cの分離、化学構造の決定である。その後香料会社にて、忌避剤(=虫除け効果のある物質)などの研究をされていたようである。これに関しては特許をいくつかとられている。香料会社では分析のスペシャリストとして後輩たちの指導もかなりなさったようである。香料会社を退職した後は、非常勤講師を経た後、東京農大の教授としてやはり香気分析を中心に研究活動をされている。

経歴から解る様に、植物~農学~GC分析dのスペシャリストである。自分などは殆どGCメインに触った時期は無いので、ぜひ色々教えてもらいたいくらいだ。専門的な話になるが、香気成分としてどのようなものが含まれているか知る際(定性分析)、役立つのがGC-MSDであり、古典的にはマスパターンの解読が必須である。香料外社内の業務的にはマスパターンは既知化合物のライブラリーとコンピューター上で照合で解析するのでパターン解読は必須ではないのだが、未解明の香気成分を特定しようとすると、まず避けて通れない(そのような仕事は香料会社というよりは、学術あるいは熱心な大手の仕事なのだ)。

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かねてより、個人的に要調査事項が自分にはあった。香気成分の生成経路解明である。植物によって様々な酵素の作用によって原料物質が代謝され香気成分(主に配糖体のような前駆物質)が植物内に蓄積される。条件(気象、外敵などの要因、生殖‥)が整うと蓄積された前駆体に酵素が作用し、香気が発せられるのである。そのような経路の研究は結構為されているのだが、成書としては少ないし、特に「香気」の生成経路に関して注目し、纏めたものにはお目にかかったことが無い。

なぜこの研究に関して調査する必要があるのかというと、香気物質の発生経路、特に微量ストロング香気成分の生成経路についても知識を蓄積しておきたいから、ということが一番の理由として挙げられる。

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藤森先生に紹介してもらった本は「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」4,fである。出版社ホームページにて確認をすると、自分の探していた、学術情報の領域に合致していそうである。
 
今までこのような調べモノにおいては医学系の代謝経路の解説本を主に参照していた。その本は「医薬品天然物化学」Paul M Dewick/著 海老塚豊/監訳(南江堂 2004年)5,6である。但し、この本はあくまでも生化学の「教科書」なので、
· 「不揮発性物質の代謝」が話の殆どを占める(興味が湧きにくい)
· メジャー成分の話は言及されるが、微量香気成分の代謝の話はあまり言及されない。
というのは、代謝経路というものを考えるとき、主に生体内の不揮発性物質をかなり経、そのような「不揮発性物質の代謝」が話の殆どを占めることになってしまう。そして、その話においてはどうしてもメジャー香気成分の話が中心になってしまい、微量成分の代謝の話はあまり言及されない。実は香気においては微量ストロング香気成分が香気の重要なインパクトとなっているeのだが。

自分としては香気成分の生成経路、代謝経路を明らかにしたい、微量ストロング香気成分の生成経路についても言及してあって欲しい、更にはそれらの初出文献まで知識をリンクするリファレンス群が欲しいと思っていた。出発点となるロードマップはこの「医薬品天然物化学」であるだろうし、「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」であろうと思う。もっとも、最終的には余力があった際に、自力で文献のリンクを構築するしかないのだろうが…。

「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」は香りの図書館か、早稲田大学の図書館にもあるみたい(?)なので、確認しようと思っている。

参考およびブログ内関連投稿
1.藤森嶺-香りの魅力を科学の言葉で-香りの科学入門--早稲田大学<エクステンションセンター早稲田校>-公開講座JAPAN
2.Amazon.co.jp: 香りの科学と美学: 藤森 嶺: 本
3.Welcome to Our Company : Home
4.|書籍|香り〈それはどのようにして生成されるのか〉|フレグランスジャーナル社
5.[ 南江堂 ]
6.医薬品天然物化学 : Paul M Dewick/著 海老塚豊/監訳 - セブンネットショッピング

a.aromaphilia: 香料・香気のデータベース化について
b.aromaphilia: 「香りの科学と美学」(藤森嶺)
c.aromaphilia: セスキテルペンの香料
d.aromaphilia: ガスクロ(GC)に関する基礎知識的なメモ
e.aromaphilia: 硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」
f.aromaphilia: 「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」蟹沢 恒好 (フレグランスジャーナル社2010年10月)

バラの入浴剤の香りイメージ作りを手伝う

アロマテラピーショップや雑貨屋さんに行くと、バスソルトが売っていることがある。大概は岩塩などにアロマオイルや粉末香料を混ぜたもののようだ。

高級感、クラシック感、ナチュラル~ハーバルという3つのイメージを持っていながら、ローズのニュアンスを感じられるバスソルトを作りたいという人が居たので、その香りを一緒に考えることになった。一般的にはお風呂用の香りは、以下の点に注意しなくてはいけない。
· 作ったときとお湯に入れたときで匂いのイメージが変わってしまう。
· お風呂に香りを入れてからどれくらい持たせたいのか(昔からあるファミリー用は香りが長持ちする)
· お風呂から上がって肌に残った香りが良いこと。
だが、今回は、
· 昔ながらの浴剤とは全く違う香りにしたい
· ファミリーで使うというイメージではなく、独り暮らしの女性が使うイメージ(香りはあまり持たなくても良い)
· 香水調では無いが、良い香りで、ビューティ感が感じられること
という、従来からのかなりイメージチェンジしたモノを作りたいようだ。そもそもアロマテラピー風呂、例えばお風呂に入る際に、肌に直接塗っても問題ないようなラベンダーオイルをお風呂に一滴垂らし、お風呂でラベンダー香気もあわせて楽しむ、というような使用感をイメージしていたらしい。それでは確かに従来の入浴剤とは対照的な商品になるだろうな、と思った。

残香のよさを演出すると同時に、お湯に垂らしたときもボリューム感が損なわれないようにウッド系をブレンドしたものに、バニリン系やパチュリをブレンドした。その上に本来のテーマであるゼラニウムと調合ローズをブレンドした。

とりあえず香りのコンセプト的なものを作ってみただけである。これを参考に少しずつ改良して商品化することにするらしい。個人的にももう少し作りこみたいお風呂用の香りだった。彼女のこの仕事がどのように展開していくのか、アイディア出しした自分としても気になる。

嗜好性とは何か、嗜好と文化成熟の関係について考えてみた

嗜好品に興味を持った。なぜなら多くの嗜好品は独特の匂いを持ち、嗜好品による満足感にはその強い匂いも大きな寄与を果たしている。

Wikipediaによると「嗜好という言葉のある中国には嗜好品というカテゴリーはなく、韓国語には「嗜好品」という言葉はあるが日本語の借用語といってよく、和英辞典の英訳もしっくりとしない。」とのこと。

「嗜好品の特質は以下のとおり。
• 普通の飲食物ではない。:栄養・エネルギー源を期待しない。
• 普通の薬ではない。:病気治療を期待しない。
• 生命維持に強い効果はない。
• ないと寂しい感じ。
• 食べると精神(心)にいい効果がある。
• 人の出会い意思疎通を円滑にする。
• 植物素材が多い。
ほとんどの場合、心理的あるいは薬理学的な機序により習慣性を有し、物質嗜癖の対象となりうる。嗜好品は、薬理学的依存形成作用の有無で二つに分けられる。すなわち炭酸飲料や菓子のように向精神作用はないが、味や香りなどによって心理的に習慣性を形成するものとコーヒーや茶[3]、アルコール、タバコなどのように、味や香りによる習慣の他に加えて薬理学的な依存性を有するものである。」

嗜好品の根底には「たしなみ(嗜み)」がある。たしなみ?たしなみと過度の依存性・習慣性との差はどこにあるのか?それは
• たしなみの対象は嗜好性(中毒性・依存性)を持つものの
• たしなみには社会的な容認が必要であって
• たしなみは節度を併せ持って行わなくてはいけない
という点にある。「大人のたしなみ」「男の嗜み」「淑女の嗜み」…いずれも中毒性がありながら、依存性・習慣性に強く嵌りすぎることなく、社会生活との両立、もしくはそれを用いて共同体内での意思疎通をより活発化・円滑化することが前提である(「たしなみ」の領域を超えて依存・習慣化してしまうと「身を持ち崩す(=ドロップアウト)」となってしまう)。

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さて嗜好品を楽しむために必要な要素はもうひとつあって、それは「嗜好品」を楽しむ人間の「成熟」が必要だということである。前述の依存性・習慣性のためでもあり、生命維持に強い効果はないためでもあるが、子供が大人になるにしたがって身につけるという性質を持っているのである。まさに「文化」を身に付けるごとくである。子供は成長するのに従って、「文化」の色に染まってゆくのと並行して、「嗜好品」の味を覚えてゆく、「嗜好品」との付き合い方を身につけて行く。「嗜好品」の味を覚えるというのは、味覚・嗅覚がその文化の中で成長し大人になってゆくことであって、「嗜好品」と上手く付き合えるようになるというのは、その文化の中で「社会性を身につけ」、共同体内での意思疎通をより活発化・円滑化することを象徴していることはとても興味深いことである。

多様な嗜好性を擁している文化は、成熟して複雑化した文化なのかもしれない。その文化の中で味覚も嗅覚も社会性もシステムも成熟して複雑化していて、その象徴として「嗜好品」文化、さまざまなカテゴリにおける成熟して複雑化した「嗜好性」が擁されている、とは言えないだろうか?

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財産や文化(=知識、システム)は戦争や災害によって破壊される。(戦争や災害などで)前世代からの引継ぎが少ない共同体は、努力しながら段々とそれらを蓄積してゆく。その結果、共同体には財産や文化が誕生する。それと並行し文化の「癖」ともいえる嗜好性が構造化し、それと並行し大人へと「成長」する際の障壁が高度化して行く。ただし、共同体が文化成熟する際には、多くの場合で社会の階層化と非流動化を伴う。そして、場合によっては共同体は閉塞し、文化は衰退する。

文化成熟した共同体下では、人間はストレスを感じるものである。自分の限界というものがあり、自由は制限され、高度な社会貢献が求められる。だからこそ、ほとんどの「嗜好品」において、心理的あるいは薬理学的な機序により習慣性を有する反面、それは社会的に容認され、大人が節度を持って、共同体内での意思疎通をより活発化・円滑化するのに用いるのではないだろうか。

その代わり、多くの嗜好品は独特の匂いを持ち、その嗜好品の匂いは共同体によって、文化的に洗練され続けてきた。満足感にはその強い匂いも大きな寄与を果たしている。こう書いてみると、「文化」と「五感とくに匂い・味」と「嗜好性」が密接に絡み合っていることが、(一部垣間)見え、もっと調べてみたくなる。論が乱暴すぎるが、考えていたので書いてみた。(リファレンスも探してゆきたい)

(引用)
嗜好品 - Wikipedia

香料開発は、実は作りこみの職人技(?)

香料開発は、実は作りこみの職人技である。

香りを研究しようとしている研究者は多いが、香料作りは研究しようとしても出来ない状態であり続けた。
• 原料が多種多様であること、入手ルートが限定される原料も多い。
• 香りを分析するのが難しかったし、今でも分析のみで全てが分かるわけではないこと。
• 調香したものですら分析で全てが分かるわけではないこと。
• 結局、配合比が分かったところで、なぜそれが良い匂いなのだか解らないこと。
したがって、職人が作りこんで、香料会社が売る。配合は明らかになることはなく、仮に配合が分かったからといって、原料の入手(特に特殊合成品や天然原料)には困難を伴い、特に新参者には難しい。

どのように匂いが決まるのか?匂いの印象を決定付けるものは何なのか?これに回答を出すことはとても難しい。しかし調香をかじった事のある人間だったら、その回答はうっすらと見える筈である。調香レシピを要素に分類し、大まかな香りの作りを把握した後に、細かい香りの部分を整えたり、強力な香気成分の添加で匂いのイメージと持続性と拡散性を強化したり…。

匂いディスプレイにおいては何を使うのかを選定し、あらかじめ選定したコンビネーションからさまざまな香りをディスプレイする性質が必要とされる。

この考え方において、「香料としての作り込み」ではなく「コンビネーション」の選定こそが、匂いディスプレイでは重要であることがわかる。

(このテーマは考え中…またいずれ)

香りディスプレイ・プロジェクト

中本先生の香りディスプレイに大きな関心を抱いている。もともと、香りの空間への利用という分野はさまざまな機関で研究されながら、実用化された例は少ない。

例えばオフィスや店舗での香りの空間演出は意外と実用化されている。ここ数年間にわたって、アロマセラピーで利用される精油のような、香りの効果を狙った空間の香りが商品化されている。学術的にも、香りがリラックス効果や集中力アップ効果などが確認されている。実店舗やオフィスでの利用は、これに加えて「香りによる差別化」や、なじみのある香りが漂ってくることによる精神安定効果は間違いなくあるだろう。

空間演出の香りは今までに嗅いだことのある匂いや食品、植物、花の香りから選ばれ、アニマルノートやムスクやマリン・オゾニックを絡ませた香水や石鹸といった複雑な香りや、あるいは食品なら発酵臭や焙煎臭(ロースト香)のような特殊性・嗜好性の高い香りはほとんど使われていない。香りでの空間演出はある意味、プリミティブな次元にあるといっても良い。そのため、空間演出用の香気はある程度「型」が決まった状態だ。柑橘やメントールやカンファ的な香りで頭をしゃきっとさせる、とか、バラやジャスミンの香りでリッチなゆったりした雰囲気を演出するとか、目的と香りのタイプが対応している。

したがって、香りでの空間演出の香りはある程度決まった「型」の中から、ユーザーが飽きてしまわないように変化をつけながら提案をしてゆけば、ある程度のユーザー満足は得られるので派にかと思う。

しかしながら問題は二つある。
• 単純な香調はいつか飽きられてしまう。新鮮味が次第に薄まり、ユーザーが香りでの空間演出に飽きたり、そもそもの差別化効果が薄まる
• 空間演出では特殊な香りは必要ないが、香りでメッセージ発信しようとするととたんに特殊な香気が必要になる。
前者は香水が20世紀に入り一気に「グルメ化」したのと同じことが起こるのではないか?プレタポルテ・ファッションにおける流行に付随する形で多様な香調が誕生した。その影には合成香料の発達や分析機器の進歩があった。多様な香調を誕生させうる原料を供給できる化学産業が興ったし、分析器の進歩が既存香水のイミテーションを迅速化し、新香気の開発が迅速化した(と同時に迅速化せざるを得なくなった)。いずれにしても香水は安価で多様でとてもグルメになった。香りの空間演出もそれと同様に、今までになかった香調が次第に求められてゆくし、供給できなければ「空間演出」というカテゴリ自体が飽きられてしまうかもしれないと考えている。

後者は特に中本先生が本の中で書いている、香りのディスプレイである。色々な香りを発生させ、メッセージを伝えようとすることが必要である。今までの化粧品や食品ではほとんど意識の上に上がらなかった、例えば海の匂いとか、煙の燃えた匂いだとか、ゴムのこげた匂いとか、特殊な匂いが要求される。嗜好性の悪い、つまり「悪臭」も強いメッセージを持つのである。そして何より困難なのは、あらかじめ準備された香り以外の香りをディスプレィしなくてはいけない場面が出現する可能性が高いのである。

空間演出のレベルでの香り発生器にしても、香りのメッセージを再生するような香りディスプレイにしても、ある一定の原料群から多種の香りを再現できたら面白いだろうし、それをカートリッジ化すれば良いとなれば商業的に現実味がアップする。そんなことを個人レベルで、だがこの夏考えている。

(関連投稿)
aromaphilia: 香りの送受信
aromaphilia: 要素臭とは
aromaphilia: 調香に関していったいどう検出して、再現すれば良いのか?

(補足)
要素臭という考え方は実は古くからあって、その歴史を紐解いてみると結構面白い…はずだが網羅的に調べられていないので、それに関して書くのはしばらく先…

香料・香気のデータベース化について

僕にとって未知であり、未解明のものである「香り・匂い」とそれを作る「調香」。香り、匂いというものは一筋縄では分からないものだ。でもその香りの世界の仕組みについても、どうなっているのか知りたい。現在調香トレーニングを受けながら日々考え、そして調べた断片をどんどん繋げてゆきたい。やがてその知識の断片、着想、感じたこと等などは繋がり始め、クラスターとして自分の眼前に広がってくれるのではないかと考えている。

そして結晶化された知や考察はやがて繋がりはじめ、相補的でゆたかな「繋がっている智」に至るはずである、と自分は考えている。それがこのブログのアドレスとして盛り込んだ「idea cluster」の真意である。

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藤森先生の社会人講義に出てみた。藤森先生は理学系の思考をしていそうである。もちろん思考は指向であって、志向であって、嗜好だ。精神論などもお好きということだったが、自然科学研究の中に神性を見出すという方向性なのではないか?自然科学は理論で筋が通っているが、人間がその理論に至れるという保障もなく、正しい直感が自然科学の回答と一致するという保証も無い。

話は幾らかそれたが、藤森先生の最初の講義で最も印象に残ったのが、「香りを囲む表象」の図。その中で、「調香」や「香りの言葉での表現」という部分が、全く学際領域として未成立である。それが明確に解ったために藤森先生のその図をとても気に入った。しかも藤森先生自身も単品香料の官能評価において、単品のみで嗅いだ場合と、他の香気中で嗅いだ場合の官能評価に差があることを、科学的に追求しようとしているという話を聞いて、より一層この先生に関心を深めた。

全く学問的に成立していないこの分野に対して、学際的なアプローチを為して行こうと考えるときに、様々な学際領域に断片的に散らばっている研究成果を、まずはidea cluster的につなぎ合わせてゆくことが重要なのではないかと考える。おそらく単純な香料会社の処方研究のレベルでは、調香に対する学際的な研究は不可能だと思うのだ。しかし香りの文化を包括的に理解するためには、調香という人為的な創造行為に対する解釈がいずれ必要になると思う。

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学際的な研究としても、実業的な研究としても香りの組成データ集め、これが重要になるのではないだろうか。大規模に蓄積された香気データは実業的にも大変有意義な解釈を与えると思う。単純に思いつく仕事が、調香向けトレンド解析や、新規化合物の使いこなしに関するアコード分解、などなど。

メンバーは分析と化学系のスペシャリスト、そして官能評価パネラーが居たら良いなぁとおもう。

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(関連記事)
aromaphilia: 私について、このブログで書こうとしているコトについて
aromaphilia: 「香りの科学と美学」(藤森嶺)

(藤森先生関係)
藤森嶺-香りの魅力を科学の言葉で-香りの科学入門--早稲田大学<エクステンションセンター早稲田校>-公開講座JAPAN
Amazon.co.jp: 香りの科学と美学: 藤森 嶺: 本
Welcome to Our Company : Home(東京農大 生物産業学部 食品香粧学科 医食香粧分野 食品香粧機能学研究室の教授です)

しょぼい香水、良い香水

良い香水が恋しい。しばしば香水に関して相談させてもらっている香水ショップで、「依然としてパコ・ラバンヌ プールオム良い匂いですね」という話をしたときに、「このパコ・ラバンヌは買っても良いかも」と、ボトルを一本案内された。「実を言うと、ある程度の回数来てくれた人にしか案内できないのだけれども」とも言われた。

いわゆる海外版の並行輸入品である。正規の輸入代理店が契約を取り付けて正規輸入しているときに、並行輸入は出来ないことは無いが、普通の香水商は手を出さない。もちろん個人購入、個人輸入においては問題とならないが。まぁとにかく同時期に正規輸入品があったにもかかわらず、並行輸入してしまった商品を幸運にも嗅ぐことが出来た。(香水の並行輸入に関する課題は改めて記述する)

正規輸入品に関しては学校においてあったので、同時にムエットにスプレーして経時で香りがどのように変わるかを見てみる。並行モノのほうが極わずかだが、甘い気がした。これは良くあることらしい。日本向けの香調とヨーロッパ・アメリカ向けの香りが少々異なっているのである。日本向けのもののほうが、薄くて持続感も弱くてという傾向にあるようだ。香りに甘みやボリューム感が薄いイメージはここから来る。

理由は一応、ネガティブ、ポジティブ両面で挙げられる。ポジティブな理由としては、日本のような高温多湿な環境では乾燥したヨーロッパの香調が暑苦しい場合があるということ。乾燥した環境で、甘くボリュームある香りは心地よいが、湿気が多い環境では臭く感じてしまう場合もある。

ネガティブな理由は、日本人が香水慣れしていないから、薄めても判らないというもの。やはり香水文化の長い欧米では不満を生んでしまう「薄い」香りでも日本人が満足してしまうのかもしれない。もう一つ理由があって、それは大手輸入代理店が、人気が出そうと思うや否や、大量発注を掛け、尚且つ卸値を下げさせること。香水商が自ら日本仕様を別注してしまっているとも言える。

色々な背景があるものの、並行輸入品の香りは濃厚さ、コク、甘み、ボリューム感を持っているように感じた。持続感も良い。パコ・ラバンヌ プールオムはあまりに横道すぎて、そして対象年齢もやや高いフゼアだが、時々かぎたくなる。「良い香水」の勉強にはなるだろう。

茶席で香水はつけられるのか

マニアックな話題で申し訳ないのだが、茶席に呼ばれた場合、香水は付けないのが礼儀とされている。これに関して考えてみようと思う。

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茶道は懐石のスタイルで客をもてなす際のマナーや素養を養うための「道」といえる。おもてなしをする際には、亭主がお客との会話を楽しみながら、流れるように滑らかな挙動でお客に料理を供し、菓子を供し、茶を供したい。懐石のスタイルとは、お茶(濃茶)を楽しむことをまず第一に、お茶の前に過剰過ぎない料理(懐石料理)とお酒、お茶の直前には凝った菓子を、亭主と客が一体となって楽しむ。茶道にはもちろんその他の要素(歴史、点前、道具、季節の取り合せ、侘び・寂び…等など)、も含まれるが、スタイルを徹底的に体に馴染ませ、その理念が全く意識しないでも滲み出してくるかのような「おもてなし」をする技術だと言えるだろう。

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さて、茶事(茶道に則った懐石スタイルのおもてなし、以下「茶事」)では、亭主側もお客側も「香り」は着けないのがマナーとなっている。そもそもお茶を楽しむということは、その味と香りを楽しむことだが、その他にも以下の点が考えられる
· 茶事の中に、これから使う茶室にお香を焚きこめるかおりの「おもてなし」がある(炭点前)
· お茶の前に懐石料理をとるが、懐石料理に限らず和食の香りは繊細で弱い
· 明治時代になるまで、茶は男子の習い事であり、茶事は女子禁制ではないものの男子の社交の場であって、香りでの異性へのアピールは想定されにくい
以上がぱっと思いつく。但し、香りを着けないのがマナーになってはいるものの、汗臭かったり、体臭を猛烈に拡散している人間もマナー違反である。違和感を与えない、清潔感を持った香りがすることは、むしろ推奨されるべきものなのではないかと思う。どんな香りをつけたら良いのか、自分の考えは後述する。

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和食の香りはなぜ弱いのか、その理由は和食が元々の素材の持ち味を活かしたものである事、保存食よりも新鮮な食材を重視する事、塩味(塩)と出汁(旨味アミノ酸)の味を重視し、香辛料の使用がかなり少ない事(香辛料の使用量・品種からいうと、世界各国見ても著しく少ない料理である、またワサビなど独特なものも多い)などが考えられる。

和食に限らず、特に上等な料理ではその香りも「楽しみ」の一つになる。フランス料理でも中華料理でも上等なレストランで食事をする際には、香水を少なめにする・着けない、もしくはトップノートが完全に消えた状態で食事の席に着く、などの配慮がマナーである。香水の匂いが酷くては折角の美味しい匂いとケンカしてしまう。

清潔感を感じる香り、花の香り、色気を感じる香り、といった化粧品的な香りは、食品の甘そう、フレッシュそう、お肉の焼ける良い匂い、といったフレーバーとことごとく衝突する。そもそも食品の香りというのは、新鮮か腐っているかを判断させ、食欲をそそったりする(今まで食べてきた経験からして美味しそうなのか・美味しくなさそうなのかを判断させる)ような香りである。それに対して化粧品の香りは、普段の寝たり、食事したり、排泄したりといった香りを打ち消して、モードの香り(=空気)を纏わせ、社交の場に出てゆけるようにしてくれる香りだ。近代文明以降、化粧品の役割は、使用する人間を清潔にし、健やかにすることであった。化粧品の香りは体臭を覆い隠し、清潔感を演出し、花やムスクや白檀で色気を感じさせる。そもそも使われている場面が違いすぎるのである。

社交の場というパブリックな場で知り合い、理性的な関係にある人間を、食事というより近しい感覚的な場に招待するという行為は、文字通り「パブリックなやり取りを一枚脱ぎ捨てて、普段かちっと着けている香りも薄めて、お互いの匂いがわかる位置で感覚面も共有しましょう」という事なのである。もちろんお酒がある席でざっくばらんに楽しむ「食事」もあるし、懐石スタイルのおもてなしのようにお茶を飲みつつ客と亭主の距離を近づけようとする「食事」もある。但し、完全なパブリックな場でのやり取りとは違って、一緒に同じご飯を食べて楽しい時間を共有化しようとしているだから、それを阻害してしまう強力な香りは止めたほうが良いという事だ。モードの香りは再び距離を遠ざけてしまうだろうし、料理を興醒めにしてしまうだろう。

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どんな香りをつけたら良いのか?人間は高齢になり新陳代謝が悪くなってくると体臭が出やすくなる、近代文明以降「清潔」であることは社会常識的に必要とされ続けてきた。つまり体臭を抑えて、清潔感を与える香りが求められている。だが「茶事」や「会食」では料理の香りを疎外していない、違和感を与えない香りであることが必要なのである。自分の答えはスタンダートでオーソドックスと思えるものをこそ必要最少量着けることだと思う(自分は男性ならフゼアのコロンなどが適していると思う)。

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上記は自分の考察中の解釈です。もっと深く掘り下げられたら良いなぁ、と思ってます。加えて実は未解決の項目があり、「明治時代になるまで、茶は男子の習い事であり、茶事は女子禁制ではないものの男子の社交の場であって、香りでの異性へのアピールは想定されにくい」という点。異性へのアピールとしての香りの役割、「会食」ならまだしも「茶事」における異性へのアピールはどうあるべきか考える議題は多い。これに関しても考察を先延ばしにします。

(memo)
男の調理場:〔和食編〕
日本料理 - Wikipedia
和食と香辛料の意外な関係  前篇:水匠の裏ブログ  ~夢は逃げない、逃げるのはいつも自分だ~

調香のインサイト

インサイトとはひらめき、新しい視点のことである。

調香をし、香りのバランスを作り出そうとするとき、目標があればその目標に出来る限り近い香気がゴールということになる。その目標は既存の商品であればその商品の香気、天然のフルーツや花であればその自然界の香気がターゲットということになる。

例えば花の香りであれば溶剤で抽出しての分析、花の周囲の空気を吸着管に通して香気成分を吸着しての分析など、様々な自然科学的技法・微量分析の技法を用いて目標とする香りのコンポーネントがどんなものなのか調べ、結果をフィードバックしながら再現して香りを組み立ててゆくことが出来る。溶剤に関して言えば、低沸点溶剤を用いたり、超臨界流体(幅広い物質に対して溶解性が高い)を用いたりすることが可能になった。吸着管に関して言えば、様々な多孔質の材料、様々な表面修飾の技術があるので、かなり微量な成分でも吸着して管内に蓄積させることによって検出できる。従来、天然物の香りは微量ストロング香気物質が組み立てられた香りに強力な個性を与えていることが解っていながらも、そのキー物質の正体が不明な場合も多かった。だが上記のような自然科学・分析技術の向上によって次第にその謎は解明されてゆくと考えられる。

例えば「新しい香水のトレンドは○○の花の香り」ということになれば、その分析を押さえて、コンポーネントが何なのか知る。その後それぞれのケミカルが入手可能か、使用可能(安全性や環境負荷的に、など)か、代用品はあるのか、コストと見合うのか、を検討し、商品開発すれば良い。

商品の香りの分析は天然の分析よりも幾らか容易である。人間の作った香気であるので、用いることが出来る微量ストロング香気物質は有限だし、抽出もそこまで難関ではない。トイレタリー商品や洗剤のような界面活性剤を多量に含むモノであっても、蒸留的な方法を用いたり、容器内の香気蒸気を吸着法で採ったり、様々な手法で目標の香りに近づいてゆくことが可能なはずだ。

匂いにターゲットがあるうちは良い。ゴールがあればそれに向かってゆける。具体的なターゲットの無いモノを作るときはどうしたら良いのだろう?自然界に無い匂いでありながら、人を惹きつける良い香りというものもある。多くの香水は様々なコンポーネントを組み合わせながら一体化した一つの明確なイメージを持っている。合成香料が発達途上であった20世紀中盤には明確に「○○の匂い」とは言えなくとも濃厚で良い香りが多い。一体感を持ち、精緻に組み上げられた一つのイメージを持つ香りの「芸術品」がいくつも知られているのだ。

このことはあまり一般には意識されないと思う。香りの素材のバランスをとって行くと強い一つのイメージに纏まるポイントがある。数点の原料でこのバランスに至ることもあるし、もっと多くの原料のバランスで纏まることもある。「焦点が合う」感覚とでも言うべきだろう。これを探してゆくのは地道で大変な作業となる。しかしこれがフレグランス調香でもっとも重要な仕事であるようにも思う。

(纏まりの無い内容、しかも個人的な見解だが、一つのメモだと思ってください)