調香のインサイト

インサイトとはひらめき、新しい視点のことである。

調香をし、香りのバランスを作り出そうとするとき、目標があればその目標に出来る限り近い香気がゴールということになる。その目標は既存の商品であればその商品の香気、天然のフルーツや花であればその自然界の香気がターゲットということになる。

例えば花の香りであれば溶剤で抽出しての分析、花の周囲の空気を吸着管に通して香気成分を吸着しての分析など、様々な自然科学的技法・微量分析の技法を用いて目標とする香りのコンポーネントがどんなものなのか調べ、結果をフィードバックしながら再現して香りを組み立ててゆくことが出来る。溶剤に関して言えば、低沸点溶剤を用いたり、超臨界流体(幅広い物質に対して溶解性が高い)を用いたりすることが可能になった。吸着管に関して言えば、様々な多孔質の材料、様々な表面修飾の技術があるので、かなり微量な成分でも吸着して管内に蓄積させることによって検出できる。従来、天然物の香りは微量ストロング香気物質が組み立てられた香りに強力な個性を与えていることが解っていながらも、そのキー物質の正体が不明な場合も多かった。だが上記のような自然科学・分析技術の向上によって次第にその謎は解明されてゆくと考えられる。

例えば「新しい香水のトレンドは○○の花の香り」ということになれば、その分析を押さえて、コンポーネントが何なのか知る。その後それぞれのケミカルが入手可能か、使用可能(安全性や環境負荷的に、など)か、代用品はあるのか、コストと見合うのか、を検討し、商品開発すれば良い。

商品の香りの分析は天然の分析よりも幾らか容易である。人間の作った香気であるので、用いることが出来る微量ストロング香気物質は有限だし、抽出もそこまで難関ではない。トイレタリー商品や洗剤のような界面活性剤を多量に含むモノであっても、蒸留的な方法を用いたり、容器内の香気蒸気を吸着法で採ったり、様々な手法で目標の香りに近づいてゆくことが可能なはずだ。

匂いにターゲットがあるうちは良い。ゴールがあればそれに向かってゆける。具体的なターゲットの無いモノを作るときはどうしたら良いのだろう?自然界に無い匂いでありながら、人を惹きつける良い香りというものもある。多くの香水は様々なコンポーネントを組み合わせながら一体化した一つの明確なイメージを持っている。合成香料が発達途上であった20世紀中盤には明確に「○○の匂い」とは言えなくとも濃厚で良い香りが多い。一体感を持ち、精緻に組み上げられた一つのイメージを持つ香りの「芸術品」がいくつも知られているのだ。

このことはあまり一般には意識されないと思う。香りの素材のバランスをとって行くと強い一つのイメージに纏まるポイントがある。数点の原料でこのバランスに至ることもあるし、もっと多くの原料のバランスで纏まることもある。「焦点が合う」感覚とでも言うべきだろう。これを探してゆくのは地道で大変な作業となる。しかしこれがフレグランス調香でもっとも重要な仕事であるようにも思う。

(纏まりの無い内容、しかも個人的な見解だが、一つのメモだと思ってください)

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