茶席で香水はつけられるのか

マニアックな話題で申し訳ないのだが、茶席に呼ばれた場合、香水は付けないのが礼儀とされている。これに関して考えてみようと思う。

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茶道は懐石のスタイルで客をもてなす際のマナーや素養を養うための「道」といえる。おもてなしをする際には、亭主がお客との会話を楽しみながら、流れるように滑らかな挙動でお客に料理を供し、菓子を供し、茶を供したい。懐石のスタイルとは、お茶(濃茶)を楽しむことをまず第一に、お茶の前に過剰過ぎない料理(懐石料理)とお酒、お茶の直前には凝った菓子を、亭主と客が一体となって楽しむ。茶道にはもちろんその他の要素(歴史、点前、道具、季節の取り合せ、侘び・寂び…等など)、も含まれるが、スタイルを徹底的に体に馴染ませ、その理念が全く意識しないでも滲み出してくるかのような「おもてなし」をする技術だと言えるだろう。

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さて、茶事(茶道に則った懐石スタイルのおもてなし、以下「茶事」)では、亭主側もお客側も「香り」は着けないのがマナーとなっている。そもそもお茶を楽しむということは、その味と香りを楽しむことだが、その他にも以下の点が考えられる
· 茶事の中に、これから使う茶室にお香を焚きこめるかおりの「おもてなし」がある(炭点前)
· お茶の前に懐石料理をとるが、懐石料理に限らず和食の香りは繊細で弱い
· 明治時代になるまで、茶は男子の習い事であり、茶事は女子禁制ではないものの男子の社交の場であって、香りでの異性へのアピールは想定されにくい
以上がぱっと思いつく。但し、香りを着けないのがマナーになってはいるものの、汗臭かったり、体臭を猛烈に拡散している人間もマナー違反である。違和感を与えない、清潔感を持った香りがすることは、むしろ推奨されるべきものなのではないかと思う。どんな香りをつけたら良いのか、自分の考えは後述する。

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和食の香りはなぜ弱いのか、その理由は和食が元々の素材の持ち味を活かしたものである事、保存食よりも新鮮な食材を重視する事、塩味(塩)と出汁(旨味アミノ酸)の味を重視し、香辛料の使用がかなり少ない事(香辛料の使用量・品種からいうと、世界各国見ても著しく少ない料理である、またワサビなど独特なものも多い)などが考えられる。

和食に限らず、特に上等な料理ではその香りも「楽しみ」の一つになる。フランス料理でも中華料理でも上等なレストランで食事をする際には、香水を少なめにする・着けない、もしくはトップノートが完全に消えた状態で食事の席に着く、などの配慮がマナーである。香水の匂いが酷くては折角の美味しい匂いとケンカしてしまう。

清潔感を感じる香り、花の香り、色気を感じる香り、といった化粧品的な香りは、食品の甘そう、フレッシュそう、お肉の焼ける良い匂い、といったフレーバーとことごとく衝突する。そもそも食品の香りというのは、新鮮か腐っているかを判断させ、食欲をそそったりする(今まで食べてきた経験からして美味しそうなのか・美味しくなさそうなのかを判断させる)ような香りである。それに対して化粧品の香りは、普段の寝たり、食事したり、排泄したりといった香りを打ち消して、モードの香り(=空気)を纏わせ、社交の場に出てゆけるようにしてくれる香りだ。近代文明以降、化粧品の役割は、使用する人間を清潔にし、健やかにすることであった。化粧品の香りは体臭を覆い隠し、清潔感を演出し、花やムスクや白檀で色気を感じさせる。そもそも使われている場面が違いすぎるのである。

社交の場というパブリックな場で知り合い、理性的な関係にある人間を、食事というより近しい感覚的な場に招待するという行為は、文字通り「パブリックなやり取りを一枚脱ぎ捨てて、普段かちっと着けている香りも薄めて、お互いの匂いがわかる位置で感覚面も共有しましょう」という事なのである。もちろんお酒がある席でざっくばらんに楽しむ「食事」もあるし、懐石スタイルのおもてなしのようにお茶を飲みつつ客と亭主の距離を近づけようとする「食事」もある。但し、完全なパブリックな場でのやり取りとは違って、一緒に同じご飯を食べて楽しい時間を共有化しようとしているだから、それを阻害してしまう強力な香りは止めたほうが良いという事だ。モードの香りは再び距離を遠ざけてしまうだろうし、料理を興醒めにしてしまうだろう。

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どんな香りをつけたら良いのか?人間は高齢になり新陳代謝が悪くなってくると体臭が出やすくなる、近代文明以降「清潔」であることは社会常識的に必要とされ続けてきた。つまり体臭を抑えて、清潔感を与える香りが求められている。だが「茶事」や「会食」では料理の香りを疎外していない、違和感を与えない香りであることが必要なのである。自分の答えはスタンダートでオーソドックスと思えるものをこそ必要最少量着けることだと思う(自分は男性ならフゼアのコロンなどが適していると思う)。

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上記は自分の考察中の解釈です。もっと深く掘り下げられたら良いなぁ、と思ってます。加えて実は未解決の項目があり、「明治時代になるまで、茶は男子の習い事であり、茶事は女子禁制ではないものの男子の社交の場であって、香りでの異性へのアピールは想定されにくい」という点。異性へのアピールとしての香りの役割、「会食」ならまだしも「茶事」における異性へのアピールはどうあるべきか考える議題は多い。これに関しても考察を先延ばしにします。

(memo)
男の調理場:〔和食編〕
日本料理 - Wikipedia
和食と香辛料の意外な関係  前篇:水匠の裏ブログ  ~夢は逃げない、逃げるのはいつも自分だ~

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