硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」

硫黄の匂い…とは言っても含硫黄有機化合物である。

一般に硫黄というと温泉の卵の腐ったような匂いや、触るとかぶれてしまう危険性のある物質と認識してしまい、香料には程遠いイメージがある。有機化学に触れたことのある人の中には「有機含硫化合物」といったら、チオール(メルカプタン)に代表されるように強烈な悪臭物質として、それを連想する人も居ると思う。

しかしその個性ある香味とその強さ(低閥値)ゆえに,有機含硫化合物はそれが広く存在している香料植物や食品類の鍵香味物質となっている場合が多い。近年の分析機器(高速液体クロマトグラフイー、ガスクロマトグラフィー、質量分析、核磁気共鳴装置など)の急速な進歩と、天然精油や加熱調理で生ずるフレーバーなどに対する地道な香気分析によって、微量含硫香気化合物がその鍵香味物質であることが多数見出されたのだ。微量含硫香気化合物は,嗜好性の高い香りと味の創生に一定の役割を担いつつある。学校でもチオメンタノンやジエチルサルファイドやメチルチオブチレートのような含硫黄化合物を香料として処方中に微量添加する処方例について検討したりしている。

このような微量含硫香気化合物の総説としては成書になるが、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」などがある。本章の執筆は高砂香料の山本氏である。簡略化して抜粋する。

————————————

最近の天然精油および食品の成分分析の進歩は著しく,新規成分も多数発見されている。特に食品は種類も多く,成分分析の膨大な研究情報が蓄積されている。ここでは含硫化合物が精油や食品の香味特性に比較的重要な役割を来たしている事例を紹介する。
嗅覚のメカニズムが奥深いことを示す現象の一つに.関値の低い化合物はその濃度により香気の印象が変化する場合が多いことが挙げられるが,特に合硫化合物の場合は極端に変化する例が多い。

通常の濃度では強すぎて悪臭でも.希釈することにより香気印象が変化して望ましい香気となる場合が多く、相当数の含硫化合物が極低濃度の状態で、広くフレグランスおよびフレーバー商品に使用されている。例えば,のりの微量含硫成分であるジメチルスルフイドは.通常の濃度では悪臭であるが.極薄めると独特なのりの好ましい香気印象を与えるようになる。問機にジブチルスルフィドの場合は,非常に強いメルカブタン様悪臭を有するが,希釈するとグリーン,バイオレット,ゼラニウム様香気となり,グリーンやフローラルのトップノートの付与など.ナチュラル感や嗜好性を高めるために.バイオレットやローズ系調合香料に用いられている。

安全性.環境問題などから,香料の使用規制問題もきびしくなり、新規香料素材においても,安全性の基準や開発コストの観点などから汎用香料の開発はハードルが高くなりつつある。そのような観点から,創香味の研究においても.個性的で閥値も低く強力な匂いを持つ香料化合物を,極小量使用して差別化を行うという考え方もトレンドになりつつある。今後新素材開発においても,小量ストロングの香料物質の開発研究が今まで以上に盛んになると思われ,中でも含硫香料化合物は着目されている。本物志向,グルメ志向が加速する21世紀の香り文化のニーズに対して,個性的な合硫香味物質が,嗜好性の高い天然の味や香りの創生ツールとして、今まで以上に多角的に利用されていくことを期待したい。

最近の含硫香味物質の研究における進歩に関して、合成手法の進歩とあいまって、分子の3次元レベル(光学異性体)での分析、香気特性などの研究も加速したが、紙面の都合上、合成法に関しては他総説などを参照していただき、ここでは天然鍵香気物質、新規合成香料、光学異性体、加熱調理フレーバーおよび特殊な用途などの話題を紹介する。

合硫化合物の香料化学を中心に最近の進歩を紹介したが,紙面の都合で省略した部分も多々あるので,詳細は記載した文献などを参考にしていただきたい。

————————————

コメントを残す