トイレタリー商品について考える (消耗品か生活必需品か)

依然として化粧品市場の状況は悪い。日経新聞は今まで割りと良好な市況を伝えてはいたが、矢野経済のレポート1)では国内市場の売り上げは微減であり、業界としての動向は厳しいとの見方を伝えていた。

国内市場では市場として完全に熟成されてしまっている。以前も書いたこと2)ではあるが化粧品市場は発達過程の市場において大きく成長する市場である。今まで貧しかった社会が経済的に大きく成長するとき、保守然としていた恰好をし、化粧をしていなかった人々は服飾・化粧によって経済的に豊かになったことを顕示する。しかし経済成長が一定程度まで達成されると服飾・化粧は当然のものとなり、コストダウンの対象になる4)

これは化粧品に関して述べたことだが、トイレタリー商品(シャンプー・リンス・ボディソープ~衣類用洗剤まで)になるとよりその傾向は顕著になる。商品レベル、流通レベルともに低い市場がそれまで以上の経済的余裕を手に入れ始め、同時にそれまでは高機能な商品を投入すれば、粗悪な従来のトイレタリー商品から市場を奪取できるだろう。化粧以上にトイレタリー製品による体の清浄感、体臭の浄化感は現代人として一度体感してしまったらそれのない生活は考えられない3)。化粧品を使ってのメイクをしない女性はある割合居るだろうが、シャンプー・リンス・ボディソープ~衣類用洗剤までを使わない現代人は居ないだろう(宗教・思想上の理由から近代以前的な生活を送っている社会もあるので全ての人とはいえないが)。トイレタリー製品は生活必需品なのである。だからこそ、一定以上の性能のトイレタリー商品が安定的に流通するようになると、コスト削減対象となる。

製品技術レベルが一定以上に到達し、正しい価格競争がなされ続ける安定した流通状態になり、ほぼ全ての人々が生活資材を保有している状態では、新しい技術や新しい意匠がなくては物を売ることが出来ない。新しい意匠はファッションとして世に問われ、その中のいくつかは流行となる。化粧に関して言えば、新しい化粧方法や流行によりそれまで無かった新カテゴリーが創生されることもあるだろうし、新しい技術によって可能になるファッションもありうるだろう。化粧品に関しては、流行といううねりがある限り、新しい化粧法や新しいアイテムが誕生し、それにしたがって製品が発売される筈だから新商品がなくなることはないだろう。

しかし、トイレタリー商品は商品バラエティが限定される上にトイレタリー製品は生活必需品なのである。各カテゴリーにおいて要求される性能も明確なことから、新カテゴリーが創生されたり、新しいアイテムが誕生するのが難しい。新しい技術が投入されることもあるが、流行というファクターの影響力は小さい。

トイレタリー商品から化粧品まで、現代の市場は成熟・完成してしまっているように思う。もちろん医学的、生物学的な学術の発展により新技術もハイエンド商品から投入されはする。しかし、圧倒的な新商品の発表は起こらないだろう。新商品で市場を席巻しようとすれば、宣伝方法を含む販売戦略、イメージ戦略(もちろん技術的なバックボーンは必要だが)が重要になる。その際には調香のセンスというものも重要になるとは思うのだが…。

1.化粧品市場に関する調査結果 2010 - 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
2.aromaphilia: 2010年9月15日水曜日
aromaphilia: 流行30年周期説? 短周期化しているのではないか?
3.Amazon.co.jp: アローマ―匂いの文化史: Constance Classenら, 時田 正博: 1997 (例えばp.120-やp.263-)
4.少し古い記事ですが
基礎化粧品「1000円未満」で激戦 大手が新ブランド :日本経済新聞

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