匂いに関して、分子受容体とセンシングとディスプレイ(提示機)に関して、少し考えてみた

匂い受容体の存在が解明されたのは実は20世紀末のことである。2004年にリンダ・B・バックとリチャード・アクセルはノーベル生理学・医学賞を嗅覚受容体に関する研究で受賞した。「ほとんどの受容体と同じく、特有のリガンドに結合するというよりも、嗅覚受容体は匂い分子の構造へ結合する。匂い物質が受容体へ結合すると、付いていた細胞内のGタンパク質を活性化する。次に、Gタンパク質がアデニル酸シクラーゼ活性してATPを環状AMP(cAMP)へ変換する。cAMPはイオンチャネルを開き、ナトリウムイオンが細胞内へ入る。すると脱分極化が細胞へ起きてその活動電位が脳へと情報を送る。」その受賞のきっかけとなった論文によると匂い受容体はおよそ1000種類あるとされる。ただし他の分子の受容体と比べ、特異性は低いようである一種類の匂い物質があるとするといくつかの受容体が反応してしまうようだ。脳はいくつ物匂い受容体からの情報を総合して匂いを認識するようである。

以前、香りを送受信するための香りセンサーと嗅覚ディスプレイについて書いたことがあったが、匂い分子~受容体間の基質特異性の低さからすると、匂いのセンシングは思い切って生体と異なるシステムを取り入れても実現させることが出来るのかもしれないと一瞬考えた。しかし、1000種ほど匂い受容体があるらしいこと、いくつもの匂い受容体で得られた信号が再び脳内で組み合わさり「匂いの認識」となっていること、をあわせて考えると、そう簡単なものでもないのかも、と思ってしまう。現時点において生体の匂いセンシングの末端機構だけが分かっただけで、その後に脳内でどんな変換が行われどのような生理現象・無意識下の心理・意識下の心理に作用しているのかは分かってはいない。また匂いのディスプレイにでは、その場で匂いを調合しディフューズする装置を用いることになる。Aの匂いはB+Cから出来ている、というような「要素臭」を探し当てなくてはいけないが、匂いの受容体が1000種類あるという事実を考えると、そもそもどうやって要素臭を絞り込めばよいのだろうか?数種類の要素臭だけで匂いを再現することがそもそも無理なのではないか?

問題はなかなか難しい。例えば…光学異性体で匂いの異なる化学物質はかなり多くある(どうやってセンサーを作るのか)、匂い物質濃度が大量にあるときと微かに流れているときでは匂いのイメージが全く異なる(この話は閾値や悪臭物質とも絡む)、含硫黄有機化合物やピラジン化合物のような低閾値化合物はそもそも匂い検出システムが異なるのではないか?など匂いに関心のあるものとしては疑問が尽きない。

この話は未調査部分もかなりあるので引き続き調べて、書くようにする。

aromaphilia: 香りの送受信
嗅覚受容体 - Wikipedia
|書籍|〈においの感覚世界への招待〉嗅覚系の分子神経生物学|フレグランスジャーナル社
Cell - A novel multigene family may encode odorant receptors: A molecular basis for odor recognition

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