シトラールの安定性、香料原料の安定性について考えてみる


香気成分はしばしば化学的に不安定なことがある。あまりにも不安定な成分では香料原料として安定利用が出来ない場合もあるが、香料原料として商品化されているものの調合後安定性を高めるために工夫が必要という場合が多い。個々の事例については香料会社のノウハウとなるが化学系の知識に基づくものであり、調べられる範囲で自分もいろいろ調べてみている。アルデヒド、特にシトラール1)に関して調べた範囲でご紹介する。

そもそも香料原料として品質劣化が問題となる場合とはどういう場合か?それは本来の香りが弱くなることもあるが、品質劣化によって異質な匂いの元となる原因物質が発生・増加して、調香された香りの調和を乱してしまう場合である。発生する物質が過剰な場合や、発生する物質が低濃度であっても沸点が低かったり、閾値が低く低濃度でもオフフレーバーとして感じられる場合は特に問題となる。

不飽和結合があれば不飽和結合のcis-trans異性化、不飽和結合に対する付加反応が起こりやすい。アルデヒドに関していえば、酸化されてカルボン酸に変換されたり、高濃度のアルデヒドは不均化反応してアルコールとカルボン酸の混合物となったりするし、重合性もある。アルデヒド結合は不安定な結合であり、光・熱・酸素によって劣化反応が起きやすいのだ。

「香料」の記事2)によると、今回取り上げるシトラールに関していえば、アルデヒドの隣の炭素が不飽和結合であるβ不飽和アルデヒドであり反応性が高い上、分子内に別の不飽和結合を持つために分子内付加反応(分子内付加反応は低濃度でも反応速度が速いので問題になる)が起こり、低沸点の異性化物が発生する。さらにこの異性化物が前駆体となり低閾値の悪臭物質を生み出すことが分かっている。調合原料の単一組成のシトラールですら劣化反応が危惧されるので調合品では問題はより複雑化する(何が起こっているのかわからない)。アルデヒドがβ不応和アルデヒドでなかったら反応性は低下するだろうし、分子内にさらに別の不飽和を持たなければ分子内環化ではなく分子間環化になって生成速度も格段に落ち、得られる反応物もそれから誘導される誘導体も高沸点になると考えられる。他の高沸点アルデヒドでシトラールほどのオフフレーバーが問題化しないのはそのような理由からである。

なお低沸点アルデヒドでは酸が問題となると考えられる。アルデヒドより誘導された酸のほうが高沸点であるのでアルデヒドから誘導された酸が問題となるのは低沸点アルデヒドの場合である。

調香された後にこの香りの化学反応によって香調が望ましい方向に動く場合もあり、この場合は「成熟」と呼び、それを見越した配合をなさなくてはならないし、温度(室温~40℃くらいが目安)をかけてその反応を促進させたりもする。

参考(編集中)
1. シトラール - Wikipedia
2. および図 高井, 香料, 233,p.97-106

バラの香り その②

学校の絡みでバラに関して纏めたので転記しておく。

植物としてのバラに関して
バラ属の植物は、灌木、低木、または木本性のつる植物で、葉や茎に棘があるものが多い。葉は1回奇数羽状複葉。花は5枚の花びらと多数の雄蘂を持つ(ただし、園芸種では大部分が八重咲きである)。北半球の温帯域に広く自生しているが、チベット周辺、中国の雲南省からミャンマーにかけてが主産地でここから中近東、ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。南半球にはバラは自生していない。世界に約120種がある。

ばらの原種が地球上に誕生して以来、この原種の自然交雑から200余種の野生ばらが誕生したと考えられている。園芸植物となっているのは、主として次の野生種8種を先祖とし、それらの交配等で生まれたものである1)。この栽培ばらでの交配が重ねられ、オールドローズが生まれた。オールドローズは一季咲き性だが、花形だけでなく芳醇な香りを持つものも多くみられた。18世紀末に中国原産の四季咲き性のばらがイギリスに導入され、ヨーロッパ・アメリカさらに中近東にも広がり、ばらの園芸化がすすんだ。

約2000年前には早くもばらの栽培が始まっていたが、1867年に現在ある園芸品種ばら作出の基礎となったモダンローズ(現代ばら)が生み出され(1837年という説もある)、その後ハイブリットティー ローズ、フロリバンダ ローズ、ミニアチュアローズ、クライミング(つる性)ローズ等の園芸品種が出現した。モダンローズの中でも特に芳香性の強いハイブリット ティーローズなどの香りが6種類に分類されている2)

現在では鑑賞用として栽培されることが圧倒的に多いが、他にもダマスクローズの花弁から精油を抽出した「ローズオイル」は、香水の原料やアロマセラピーに用いられる。 花弁を蒸留して得られる液体「ローズウォーター」は、中東やインドなどでデザートの香りづけに用いられる。 また、乾燥した花弁はガラムマサラに調合したり、ペルシャ料理では薬味として用いる。 日本では農薬のかかっていない花弁をエディブル・フラワーとして生食したり、花びらや実をジャムや砂糖漬けに加工したり、乾燥させてハーブティーとして飲用することもある。

バラの香りと系譜図2), a)
新潟県長岡市 越後公園管理センターによると栽培品種の香りは次の6種類の香りに分類できる。

* ブルーの香り
ブルーの花色を持つ青ばら系の品種のほとんどが、この香りをもっています。この香りは主としてダマスク-モダンの香り成分とティーの香り成分が混在し、他にはない独特な香りを形成しています。(ブルーの香りをもつ代表的なばら;ブルー ムーン、ブルー パーフューム、シャルル ドゥ ゴール、ブルー ライト)

* ダマスク-クラシックの香り
皆さんが知っている、いわゆるばらの香りといえばこの古典的な香りでしょう。強い甘さと華やかさやコクを合わせ持っていて、心を酔わせる香りです。現代ばらには典型品種が意外と少なく、ティーやフルーティーの香りがやや強く出る傾向があります。(ダマスククラシックの香りをもつ代表的なばら;芳純、香久山、グラナダ、香貴)

* ティーの香り
ダマスク系の香りとは全く異なる特有の香り成分を含有しています。香り立ちは中程度ですが、上品で優雅な印象を与えます。現代ばらの品種に最も多くある香りです。ハイブリットティーローズの多くには量の多少はあるものの、このタイプの香り成分を含有しています。(ティーの香りをもつ代表的なばら;ガーデン パーティー、ディオラマ、秋月、天津乙女)

* ダマスク-モダンの香り
ダマスク-クラシックの香りを受け継ぎながら、香り立ちは強くより情熱的で洗練された香りです。ダマスク-クラシックとは含有する成分のバランスが異なっているために香りの質も違って感じられます。比べてお楽しみ下さい。(ダマスク-モダンの香りをもつ代表的なばら;パパ メイアン、レディラック、シャルル マルラン、マーガレット メリル)

* フルーティーの香り
ダマスク系およびダマスク系の香りが変化した成分が多く含まれ、さらにティー系の特徴成分がいろいろなバランスで混在した香りを持つことが特徴です。ピーチのような香りや、アプリコット、アップルなどの新鮮な果実の香りが想起される香りです。(フルーティーの香りをもつ代表的なばら、ダブル ディライト、フリージア、マリア カラス、ドフト ゴールド)

* スパイシーの香り
ダマスク-クラシックの香りが基調ですが、丁字(クローブ)ようの香りがやや強く感じられスパイシーな香りが特徴です。(スパイシーの香りをもつ代表的なばら;粉粧楼、デンティーベス、ロサ ルゴサ、ロサ ルゴサ アルバ)

香粧品にとってのバラの香り
花の香り、その製油の香りは植物の品種、生産地(テロワールのようなものと考えても良い)にかなり依存しており、生花店に流通しているローズは、香料におけるバラの香りとは異なる匂いである。仮に栽培品種を大量に集めて精油抽出しても同じ香気のオイルは得られないだろう。生花店にて売られているバラは品種交配によって痛みにくく、望みの色の大振りの花を咲かせるように品種改良されている。鉢植えのものでも、四季咲き性(季節を問わず花が咲く性質)を持たせたりされている。香料における典型的なバラの香りとは、ブルガリアで栽培されているダマスクスローズの香りである3)

誰もが認める典型的な天然香料原料は、
① ブルガリア(またはトルコ)産のRosa damascenaの花弁から水蒸気蒸留によって得られるRose oil (Otto oil, Rose ottoという名前で呼ばれることもある)
② モロッコ(またはエジプト)産のRosa centifoliaの花弁から溶剤抽出によって得られるRose absolute
である3)

大昔からローズは高級の代名詞である。香水の骨格において調香上の重要なポイントになることが多く、高級な香粧品においてローズの香りがポイントになることも多い。バラの香りは香粧品業界では王様ような、別格の存在である。だが、現在においては天然単品香料を安定的に入手するのは困難であるし、原材料費も高価になってしまう。特にバラに関しては採油率が低いこともあって、天然原料は高級である。そのために良いベースコンパウンドを開発することが古くから求められてきたといえる。

既存で優秀なベースコンパウンドには
· Rose VE
· Rose 1611
· Rose 61
· Wardia
などがある。

バラの香りと香気分析、微量ストロング素材b)
ローズの(生花の)香気分析もコンスタントに続けられており、フレグランスジャーナルのような香粧品雑誌にも定期的な研究成果の報告がなされていたりする。たとえばローズオイルからは微量成分として多くの合硫化合物が発見されている。ローズ調香においては微量香気成分がキーノートになっている場合もおおく、たとえばローズのトップ感を引き立てるのに有用な特徴成分として2-メチルチアゾールが発見されている。関値は0.1ppmを示し,フローラルなグリーン調の香りにほのかなフルーティー香気を有すとされる4)。安全性.環境問題などから,香料の使用規制問題もきびしくなり、新規香料素材においても,安全性の基準や開発コストの観点などから汎用香料の開発はハードルが高くなりつつある。そのような観点から,個性的で閥値も低く強力な匂いを持つ香料化合物を,極小量使用して差別化を行うという考え方もトレンドになりつつある。今後新素材開発においても,小量ストロングの香料物質の開発研究が今まで以上に盛んになると思われる。

ローズ調香は精密香気分析とストロング単品香料の精密使用の最先端の舞台であると思われる。今後も精密香気分析や新規素材の動向に注意を払う必要があると考えている。

参考
1. バラ - Wikipedia
2. ばらの香りと系譜図|国営越後丘陵公園(新潟県長岡市宮本東方町字中山1921-2 越後公園管理センター HP)
3. 香りの百科 日本香料協会 朝倉書店 p.453
4. サルファーケミカルズのフロンティア, 中山重蔵, 山本健(他), シーエムシー出版(2007) (特に含硫黄有機化合物に関して纏められている)

a. aromaphilia: バラの香り
b. aromaphilia: 硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」

香料原料開発

香料原料の開発は、主に有機合成からのアプローチとしてなされる。世界的にはフィルメニッヒ、日本国内では高砂が合成系に強い香料会社といわれている。

さて香料に限らず、新規化学物質を市場に出すためには安全性(有毒かどうか)や環境への影響(作る工程の確立時にもプロセス自体の安全性や環境負荷も問題となるが、その話はおいておく)を明確にして、国内法に合致したプロセスを立ち上げて製造することになる。またその原料が明確なパフォーマンスを示すかどうかは莫大な投資をする会社にとって重大な関心事で、その商品候補の新規化合物は厳しく吟味されることになる。このような2つのハードルのために、有機合成系の研究者が提案した新商品候補や製造法の候補のうち、プロセスとして立ち上がり、日の目を見るのは極々一部だけである。

上記のプロセスを考えてもらえば分かるように、香料のケミカル開発は製薬の開発と似ている。日経新聞を読んでいて、気になる記事に「日揮」の記事があった1)。日揮は化学プラントの設計と立ち上げ支援をする会社。製薬系の製造技術はバルク商売の化学工業とは結構異なると考えられるのだが、プラントノウハウや触媒技術に関しても積極的に社内資本として整備しようとしているのだなぁ、と一連の記事を見ていて感じられた。

合成屋としての能力が低い香料会社が新規化学物質での商売に手を出そうとした場合、新規化合物の選定に関しては、特許調査・学会調査とコネクションを利用した入手・大学研究室を使った試験的合成から何とかなるだろうが、特許買取後に安全性確認や環境負荷の評価、それらがクリアされるとプラント設計と製造設備が問題になってくる。そのような際、製薬系についてもノウハウを持つ会社が設備立ち上げとプロセス設計のブラッシュアップに参与してくれるなら、結構良いものが立ち上げられうのではないかと思う。実際にはこのような会社との付き合いをしたことは無いが、注意して情報収集してみたいなぁと思っている。

1. 日揮、医薬開発支援事業を拡大 東京CROを買収 :日本経済新聞

セスキテルペンの香料

天然の香気物質の中でも炭素数15個の化合物は大まかに言って木の匂いのするものが多い。

木というと森の香り、栗の木の匂いやフィトンチッドに代表される針葉樹林の清々しい匂いを思い浮かべる人もいるだろうが、今回話題として話したい匂いは、木とは言っても新品のヒノキ材の匂いとか、おが屑の匂いのほうだ。

この木材の匂いは香料的には「ウッディ」という言葉で表現される。アロマテラピーで、同系等の匂いが「アーシー(土的)」とも表現されることもある。

このタイプの香りの香料はほとんどが天然だ。というのも、セスキテルペン類ともなると分子量が高くなり、沸点が高くなるために精製が困難になる。仮に合成ルートがあったとしても合成後の精製作業が出来なかったり、天然から単離してくるにしてもせいぜい水蒸気蒸留を用いるのがせいぜいだったりする。目的物質の精製方法としては、実験室レベルではカラムクロマトグラフィなどの分離抽出方法があるが、商業レベルでは単価の著しい上昇を伴ってしまうために採用できない(医薬品などは例外)。ちなみに商業レベルで用いられる方法としては、再結晶、蒸留(分留)、抽出がある。というわけで、ウッディ香料の中心は天然から抽出した香料、またはそれを出発物質にして化学修飾した合成香料になる。天然の代表例としては、パチュリオイルやベチバーオイル、サンダルウッドオイルやヒノキオイル等など(またそれぞれを単離精製したものもある。合成タイプ(化学修飾したタイプ)としてはVertfix (Coeur) やiso-E superなどが有名だ。

セスキテルペンの中にはウッディではない香調の物質もある。ある特定の構造を持つ香料は明らかにウッディと異なる香調をもっていたりするのだ。たとえばダマスコンという香料物質はカシスのような重たい甘い香りを持っている。ちなみに異性体によって少しずつ香調に差がある。基本的にはウッディ香調だった化合物群うち、特定の化学構造を持つものの香りがウッディではない特異的な香調を発現するのである。

このような合成香料のターゲットモデルの選定は、実のところ学術の世界にもほとんど出てこない。しかしそこには何らかの理化学的アプローチが可能なはずであって、個人的にはとても知りたいところだ。

(未完成記事…後日記事内容修正します)

硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」

硫黄の匂い…とは言っても含硫黄有機化合物である。

一般に硫黄というと温泉の卵の腐ったような匂いや、触るとかぶれてしまう危険性のある物質と認識してしまい、香料には程遠いイメージがある。有機化学に触れたことのある人の中には「有機含硫化合物」といったら、チオール(メルカプタン)に代表されるように強烈な悪臭物質として、それを連想する人も居ると思う。

しかしその個性ある香味とその強さ(低閥値)ゆえに,有機含硫化合物はそれが広く存在している香料植物や食品類の鍵香味物質となっている場合が多い。近年の分析機器(高速液体クロマトグラフイー、ガスクロマトグラフィー、質量分析、核磁気共鳴装置など)の急速な進歩と、天然精油や加熱調理で生ずるフレーバーなどに対する地道な香気分析によって、微量含硫香気化合物がその鍵香味物質であることが多数見出されたのだ。微量含硫香気化合物は,嗜好性の高い香りと味の創生に一定の役割を担いつつある。学校でもチオメンタノンやジエチルサルファイドやメチルチオブチレートのような含硫黄化合物を香料として処方中に微量添加する処方例について検討したりしている。

このような微量含硫香気化合物の総説としては成書になるが、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」などがある。本章の執筆は高砂香料の山本氏である。簡略化して抜粋する。

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最近の天然精油および食品の成分分析の進歩は著しく,新規成分も多数発見されている。特に食品は種類も多く,成分分析の膨大な研究情報が蓄積されている。ここでは含硫化合物が精油や食品の香味特性に比較的重要な役割を来たしている事例を紹介する。
嗅覚のメカニズムが奥深いことを示す現象の一つに.関値の低い化合物はその濃度により香気の印象が変化する場合が多いことが挙げられるが,特に合硫化合物の場合は極端に変化する例が多い。

通常の濃度では強すぎて悪臭でも.希釈することにより香気印象が変化して望ましい香気となる場合が多く、相当数の含硫化合物が極低濃度の状態で、広くフレグランスおよびフレーバー商品に使用されている。例えば,のりの微量含硫成分であるジメチルスルフイドは.通常の濃度では悪臭であるが.極薄めると独特なのりの好ましい香気印象を与えるようになる。問機にジブチルスルフィドの場合は,非常に強いメルカブタン様悪臭を有するが,希釈するとグリーン,バイオレット,ゼラニウム様香気となり,グリーンやフローラルのトップノートの付与など.ナチュラル感や嗜好性を高めるために.バイオレットやローズ系調合香料に用いられている。

安全性.環境問題などから,香料の使用規制問題もきびしくなり、新規香料素材においても,安全性の基準や開発コストの観点などから汎用香料の開発はハードルが高くなりつつある。そのような観点から,創香味の研究においても.個性的で閥値も低く強力な匂いを持つ香料化合物を,極小量使用して差別化を行うという考え方もトレンドになりつつある。今後新素材開発においても,小量ストロングの香料物質の開発研究が今まで以上に盛んになると思われ,中でも含硫香料化合物は着目されている。本物志向,グルメ志向が加速する21世紀の香り文化のニーズに対して,個性的な合硫香味物質が,嗜好性の高い天然の味や香りの創生ツールとして、今まで以上に多角的に利用されていくことを期待したい。

最近の含硫香味物質の研究における進歩に関して、合成手法の進歩とあいまって、分子の3次元レベル(光学異性体)での分析、香気特性などの研究も加速したが、紙面の都合上、合成法に関しては他総説などを参照していただき、ここでは天然鍵香気物質、新規合成香料、光学異性体、加熱調理フレーバーおよび特殊な用途などの話題を紹介する。

合硫化合物の香料化学を中心に最近の進歩を紹介したが,紙面の都合で省略した部分も多々あるので,詳細は記載した文献などを参考にしていただきたい。

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超臨界CO2


2010/8/17のメモからの転記
(AIST「やさしい超臨界流体教室」より)
http://riodb.ibase.aist.go.jp/SCF/sdb/scf/scf_top.html

Q1: 超臨界流体って何ですか?

A: 物質は、温度、圧力などの環境条件により気体、液体、固体の3つの状態の間を移り変わります。図1はこれを図示したものです。気体、液体、固体の3相が共存している点を三重点といいます。三重点より温度が高くなると、液体と気体の2相が平衡になり、圧力は飽和蒸気線に沿って変化します。温度、圧力を加えても液体と気体の区別がつかなくなる終点があり、これを臨界点といいます。この臨界点を越えた温度と圧力の状態にある流体を超臨界流体といいます。

超臨界状態になった流体は、液体や気体の状態とは異なった性質を持っています。たとえば、超臨界二酸化炭素は油などに対する親和性が高く、油脂や香味成分をよく溶かします。このため、食品からこれらを抽出する際に広く使われています。

Q4: どんな超臨界流体がありますか?

A: 物質はすべて超臨界流体になります。身近なところでは水や二酸化炭素が超臨界流体として広く利用されています。

Q5: 超臨界二酸化炭素はどのように利用されていますか?

A: 二酸化炭素は地球上に広く存在し、人体に対して無害なため広く利用されています。また、無極性分子なので、ヘキサン等の有機溶媒と同じように油脂類を良く溶かします。もちろん、二酸化炭素は分子量が小さいため、分子量のおおきな溶質への溶解力は小さく、溶媒として利用するためには超臨界状態にしなければならないのですが、毒性や引火性がないことや、超臨界流体の特性を利用することで有機溶媒では困難な操作を行なうことができるため、いろいろな応用が考えられています。工業的にはコーヒー豆からのカフェイン除去に利用されたのを始めとして、他に以下のような応用例があります。

分離・抽出(香料、色素、不飽和脂肪酸、医療品)、
超臨界乾燥、
超臨界洗浄、
超臨界染色、
マイクロ発泡、
微粒子製造、
有機合成反応(有機化学反応、
触媒反応、酵素反応、ミセル反応、重合反応等)、
超臨界塗装、
殺菌、
分析

Darzen反応


Darzens reaction (also known as the Darzens condensation or glycidic ester condensation)…α,β-エポキシエステル(グリシド酸エステル)の合成法として有用。α-ハロエステルの変わりに、α-ハロニトリルやα-ハロスルホンなどを求核剤として用いても同様の反応が進行する。

生成物を加水分解して得られるグリシド酸は熱的に不安定で、加熱すると脱炭酸を伴って一炭素増炭したカルボニル化合物を与える。

反応機構;
アルドール反応類似の反応機構で進行する。


▼ 文献
http://en.wikipedia.org/wiki/Darzens_reaction
・Erlenmeyer, E. Liebigs Ann. Chem. 1892, 271, 137.
・Darzens, G. Compt. Rend. 1904, 139, 1214.
・Newman, M. S.; Magerlein, B. J. Org. React. 1949, 5, 413.
・Arsenjyadis, S. et al. Org. React. 1984, 31, 1.
・Ballester, M. Chem. Rev. 1955, 55, 283.

ゼオンのキラルラクトン


(http://www.zeon.co.jp/business/enterprise/spechemi/spechemi3-1.html)からのメモ
ゼオンはラクトン類やグリーン香調を持つC6アルデヒド/アルコール/エステルを商品として持っており、販売している。ラクトン類はキラルコントロールしたものもあり、合成技術の高さを感じる。

delta-Decalactone

Delta LACTONES, which naturally occur in many kinds of foods, are indispensable for creating various flavor and fragrance compounds.

Many flavor and fragrance components have chiral structures, which show optical activity, and well-known that the odor quality of optically active substances is much superior to that of racemic compounds.

ZEON CORPORATION has successfully developed the synthetic process of manufacturing the optically active delta-Decalactone and commercially launched two types of enantiomers R-body and S-body.
Using the optically active delta-Decalactone in compounds makes it possible to reproduce really natural flavors and fragrances that have been impossible to create only with racemic compounds.

■PHYSICAL PROPERTIES
Formula   C10H18O2
Flash point 148C°(Open cap)

■ANALYTICAL SPECIFICATIONS
Purity(GC%)   min. 98.0%
Optical purity(ee) 80.0% ~ 83.0% ee
Specific gravity(d20/20) 0.969 ~ 0.975
Refractive index(n20/D)   1.455 ~ 1.460
Acid value(mg KOH/g)   max. 5.0

■REGISTRATION
CAS NO.   705-86-2
TSCA listed
EINECS NO. 2118891
FEMA GRAS NO.   2361
H.S.TARIFF NO.   2932.29

■Stereodifferentiation of delta-Decalactone in natural products
Food   R : S
Cheddar cheese 71.8 : 28.2 (43.6%ee)
Osmanthus oil 83.8 : 16.2 (67.6%ee)
Peach   97.0 :3.0 (94.0%ee)
Raspberry   2.2 : 97.8 (95.6%ee)

ラクトン


ラクトン (lactone) は、環状構造を持つ有機化合物のうち、分子の環の一部としてエステル結合を含むものを指す。

5–6員環のラクトン構造はテルペン類などの天然物に多く存在し、香気成分やフェロモンなどによく見られる。3, 4, 5, 6員環のラクトンはそれぞれ、α, β, γ, δ-ラクトンと呼ばれることがある。

<合成> 合成法は主に、ヒドロキシ基とカルボキシル基を持つ分子(ヒドロキシカルボン酸)の分子内脱水縮合による。環化を起こしやすい5,6員環ラクトンの形成は容易で、相当するヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステルを酸触媒で反応させるだけでラクトンが得られることが多い。

12員環以上の大環状ラクトンをマクロライド(後述)と総称する。抗菌作用や抗腫瘍作用など強い生理活性を示すものが多く、抗生物質 エリスロマイシン、抗真菌剤 アムホテリシン、免疫抑制剤 タクロリムスなどが医薬として実用に供されている。(例)麝香臭を持つ香料として著名なエキサルトリド (exaltolide) は16員環のラクトンである。
<合成> 7員環以上の中・大員環ラクトンは高度希釈法を用いるなど合成に工夫を要し、山口ラクトン化反応やオレフィンメタセシスによる方法が近年多く用いられている。

反応 [編集]
水酸化ナトリウム水溶液などで加水分解すると、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸に戻る。反応性や機構はラクトンの環の大きさにより変わる。5員環以上のラクトンの加水分解は、カルボニル炭素への OH−イオンの付加から始まる付加脱離機構で、立体的なひずみを持つ 4員環ラクトンでは、OH−イオンが4位の炭素を攻撃する SN2機構で進行する。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』参考http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%B3
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