要素臭開発が香りインタラクションの発展を促進すると考えている。
中本先生の研究会でのの筧さんの話は面白かった。筧さんは慶応SFCの先生で、嗅覚をテーマにしたインタラクションを作成し、それによる受賞歴などもある人。彼のインタラクション作品hanahanaは、香気センサーとセンサーアレイの情報処理を中心とした技術(中本先生も専門としている分野)が製作におけるヒントになっている。香りを付けたムエットを花瓶に挿すと花瓶の中に入っているセンサーアレイがセンシング、解析された香気パターンに応じた花がプロジェクタで映し出され、花瓶に花が咲いているような映像を体験できる。センサーはフィガロ技研の半導体ガスセンサーである。おそらく香りという言語化できないものをセンシングし、可視化するという行為、映像もまた完全な言語化はできないという点がユーザー体験として面白いのであろうと思われる。現在は慶応で研究室を持ち、指導と創作活動を平行して行っている立場にある。
センシング結果はできるだけユーザー体験を面白くさせるような方向に出力が広がるようアジャストされている。ただこの作品が内包している問題は、香りをブラックボックスとして取扱い、解析の持つ意味合、香りの持つ意味合は究極的には理解できない点にある。これは、インタラクション(=ユーザー体験)としては面白いものができる半面、香りで美を追求するとか、香りの持つ意味合いを解析しユーザーにメッセージとして提示するということはできないのである。出力されるメッセージをコントロールできない、出力されるメッセージが解釈できない、という点はクリエーターに嫌われる点になり兼ねないように思う(のだがどうだろう?)。
上田麻紀さんは香りの抽出やいろいろな香りの蒐集をインタラクションとして提案した、筧さんはセンシングを中心としたインタラクションを提案した、現状に置いてそこは別の次元のインタラクションとして解釈されている。実際、後援者たちも前者は香料会社、後者はセンサー工学であり、表面上は近そうなカテゴリーでありながら、断絶があるように思う。これは人間の嗅覚が一般人の理解としてもブラックボックスであり、有機的な結合感覚がないためである。嗅覚について、香りについて有機的な結合感覚を得ようとすると、それはトレーニングを意図的に行っていくしかない。これを積み上げて行った人間の究極的な姿は調香師なのではないかと思う。現状においては香りのアートを展開してゆけるのは調香トレーニングの習得、もしくはそれが基礎的な部分において必要であることの認識が不可欠であると思われる。
筧さん自身はこの香りセンシングインタラクションに関して続編の製作も行ったが、興味の中心からは離れているのかなと思った。最近のワークショップで用いているのは、触覚再現をしてくれるモジュール。触覚に関しては意味合いの理解が分かり、再現されるものを発信したいメッセージに近くなるようコントロールしてゆくことが香りよりは容易である。触覚(振動含む)センサー技術の向上、再現モジュールの性能向上、パソコンの高性能化、解析に必要なソフトウェアの充実と実用上の性能が確保されつつあること、これらから五感に訴えるユーザー体験を簡単に作り出すことが簡単になった。筧さんたちメディアアートの役割は、このようなインタラクションとして技術革新によって達成されたものを還元し、ピュアアートや広告、エンターテイメント(ゲームなど)のシードへと繋げることにある。
嗅覚に関して、当面の問題としては、嗅覚や香りの中身がブラックボックス過ぎ、そこにある体験の意味合いの解釈に至らず、メッセージの発信まで繋がってゆかない、と言った。かつては音楽に関しても触覚に関しても、味覚に関しても、光に関しても、「有機的な結合感覚」を得ようとすることは困難だった。しかしいずれもセンシングとそれによる数値化に基づくユーザーインターフェースが開発され、パソコンを通じてクリエーターが製作物をコントロールしやすい状況が出現しつつある。
例えば音楽に関しては、ミックスやエフェクトを作ろうとしたりSR/PAをやろうとすると、高額なアナログ機器を揃え、電子回路の技術を習得し無くてはいけなかった。だがPCの高性能化とソフトウェアの開発によりそれらは容易になった。真空管アンプシュミレータなども充実している。音とは何なのか分かって、「有機的な結合感覚」をもってクリエイトする環境が容易に入手出きるようになった。この結果としてピュアアートや広告、エンターテイメント(ゲームなど)のレベルは今後より高度になってゆくと考えられる。
同様の事が今後、音楽のみならず、触覚に関しても、味覚に関しても、光に関しても、加速する。いずれもセンシングとそれによる数値化に基づくユーザーインターフェースが充実し、「有機的な結合感覚」を得るのは容易になってゆく。例えば味覚に関しては、5味センサーが実用化され、味のクリエーションや流通している商品のトレンド解析に役立ち始めている。触覚技術の向上によってゲームへの触覚再現のクオリティが向上する、などなどのことが実現する。
筧さんはラフなものでも良いからとりあえず魅力的な新技術を盛り込んだユーザーインターフェースを開発し、クリエーターに投げたい、と「ラビットプロトタイプ」、「ちょっと突破しやすくなるようなフック」という言葉を用いて_言っていた。いずれもセンシングとそれによる数値化、パソコンを通じてクリエーターが製作物をコントロールしやすい状況を出現させることが重要である。それらをベースとしてハンドリングしやすいユーザーインターフェースを開発する。それによって、特に言語化が困難なものであればあるほど、メッセージの発信まで繋がってゆかないクリエーションに対して、「有機的な結合感覚」を得ることを可能にする、クリティカルな答えになるのではないかと思う。
IBMのトップの発言に今後5年間ほどで触覚、味覚、そして嗅覚に関するインターフェースが発達し、コンピューターの世界で取り扱われる事が加速するとある。しかし嗅覚に関して、当面の問題としては、嗅覚や香りの中身がブラックボックス過ぎる事がある。そこにある体験の意味合いの解釈に至らないのである。自分のそれに対するソリューションとしては「要素臭の開発」を提唱する。センシングや分析を「要素臭」をキーとして読み直すことによってこの様なユーザーインターフェースの開発を推し進められると思うのである。その際に必要なものとしてはやはり生物学からのフィードバックを想定している。その世界は結構目の前にあり、後は誰が為すのかという問題だけだとも思う。
1.慶應義塾大学SFC 環境情報学部 筧康明研究室ウェブサイト | Website of Yasuaki Kakehi Laboratory, SFC, Keio University
2.魔女の実験室 MAKI UEDA artist blog
3.IBM による5つの未来予測:5年後のコンピューターは「匂い」「味」「触感」に対する認識能力が向上する - japan.internet.com テクノロジー
4.The IBM Next 5 in 5: Our 2012 Forecast of Inventions that Will Change the World Within Five Years « A Smarter Planet Blog (原文)