展示会無事終了

(1/7)横浜で行われていた展示会は無事完了した。

前回も考えていた事なのだが、少々電気系、バーチャルリアリティ系とも異なる土壌の展示会であっても研究室の研究成果を発表することで、広く技術を知ってもらい実用的な利用について異分野の人に考えてもらう事は、嗅覚デバイスの開発には重要である。今回の出展は特にアート系の人たちをターゲットとしたものであるとの事だったので、尚更である。新技術はアート、特にインタラクションアートによってその魅力が伝えられると思う。

展示会は少々わかりにくく、一般のお客さんで来てくれる人が少なかった点は残念な点だった。

だが、結構広いスペースで研究内容のポスターも展示させてもらったことは、良かったと思う。今回の研究室の展示内容は、キーボードでの演奏と香りのディスプレイ(提示)を同期するデバイスを展示した。タッチパネルで香りとキーボードからの音色を自由に選択し、演奏できる。今回はアイスクリームをテーマとした様々なフレーバーをディスプレイできるようになっている。

このアイディアを出し、作品として完成した研究室の仲間(音楽の経歴を持っている)にとっても得るものがあったのでは?と思う。同時に作品を出展することになった方々の中には、音楽をやっている方、アートのキャリアがあって映像を出展した方がいたからである。彼らに作品を見てもらうことが出来、結構ゆっくりと実際に触ってもらえたのは良かったのではと思う。

aromaphilia: 研究室として展示会出品 2013.1.05~1.07

研究室として展示会出品 2013.1.05~1.07

大学の研究室の出品に関してお知らせします。研究室的にはアート製作者の方々への技術アピールという側面があります。興味を持ってもらえるようでしたら、ぜひお知らせください。

U35 JAPAN PROJECT―U35 CREATORS JAPAN EXHIBITION http://www.japaninstitute.jp/u35jp/creatorsjapan/ (主催者)
http://yan.yafjp.org/event/event_23328 (会場)

会場; 横浜市西区みなとみらい2-3-5 クイーンズスクエア横浜クイーンモール2F
会期; 13.1.05(Sat) ~13.1.07(Mon)11時〜19時 ※一般初日は午後から、最終日は16時閉館

(やはりブログは書くものである。書いただけ自分の悩んでいたこと、悩んでいたがために思い至っていなかった事柄(主に明るい方向性)に思い至り、少し自分に自信がもてたりする。体調が悪いときに一人で考え事をする、しかもそれを書き出さない、と方法を安直につかうと、悪い方向への循環参照になってしまう。)

研究室として、嗅覚ディスプレイの展示を2013年開始直後より割とタイトに行う予定である。1月第一週の週末に横浜であるアートイベントに展示させてもらう。このイベントは若手アーティストのチャレンジ的な複合メディアを出品する場となっている。中本研究室的には嗅覚ディスプレイをマルチメディアの場で活用していく方向を持っており、この様な作品展で嗅覚ディスプレイを体験してもらうこと、知ってもらうことはなかなか重要である。

今回の展示内容は2012年度の工大祭で出典したものと基本的には同じものを展示する予定であり、その目標は音楽と香りのコラボレーションの体験にある。アイスクリーム屋さんをモチーフにした演奏システムで、香りの演出と出てくる音楽の調和を感じてもらう。香りは個々の食品をイメージするような香りになっており、自動演奏モードでは音楽の印象と合うような香り、演奏モードでは音色と合うような香りをユーザーに提示する。演奏モードでは香りの提示は楽器(鍵盤)の音の強さに応答して香りの強さも変わるようになっている。今回の展示はそこまで香りのアートとしてのすり合わせはしていない。そこまでやってしまうと香りのアートになってしまうであろうし、それをできる人間も多くはないだろう。

今回の出展においては新規展示品はなしの予定だが、今後の予定として、今回のアイスクリームの展示内容とは別のコンテンツも出品する予定である。その際にはもう少し香りの内容に関しての作り込みがなされた別のコンテンツを準備することにしている。

香りインタラクションについて少々考えてみる

要素臭開発が香りインタラクションの発展を促進すると考えている。

中本先生の研究会でのの筧さんの話は面白かった。筧さんは慶応SFCの先生で、嗅覚をテーマにしたインタラクションを作成し、それによる受賞歴などもある人。彼のインタラクション作品hanahanaは、香気センサーとセンサーアレイの情報処理を中心とした技術(中本先生も専門としている分野)が製作におけるヒントになっている。香りを付けたムエットを花瓶に挿すと花瓶の中に入っているセンサーアレイがセンシング、解析された香気パターンに応じた花がプロジェクタで映し出され、花瓶に花が咲いているような映像を体験できる。センサーはフィガロ技研の半導体ガスセンサーである。おそらく香りという言語化できないものをセンシングし、可視化するという行為、映像もまた完全な言語化はできないという点がユーザー体験として面白いのであろうと思われる。現在は慶応で研究室を持ち、指導と創作活動を平行して行っている立場にある。

センシング結果はできるだけユーザー体験を面白くさせるような方向に出力が広がるようアジャストされている。ただこの作品が内包している問題は、香りをブラックボックスとして取扱い、解析の持つ意味合、香りの持つ意味合は究極的には理解できない点にある。これは、インタラクション(=ユーザー体験)としては面白いものができる半面、香りで美を追求するとか、香りの持つ意味合いを解析しユーザーにメッセージとして提示するということはできないのである。出力されるメッセージをコントロールできない、出力されるメッセージが解釈できない、という点はクリエーターに嫌われる点になり兼ねないように思う(のだがどうだろう?)。

上田麻紀さんは香りの抽出やいろいろな香りの蒐集をインタラクションとして提案した、筧さんはセンシングを中心としたインタラクションを提案した、現状に置いてそこは別の次元のインタラクションとして解釈されている。実際、後援者たちも前者は香料会社、後者はセンサー工学であり、表面上は近そうなカテゴリーでありながら、断絶があるように思う。これは人間の嗅覚が一般人の理解としてもブラックボックスであり、有機的な結合感覚がないためである。嗅覚について、香りについて有機的な結合感覚を得ようとすると、それはトレーニングを意図的に行っていくしかない。これを積み上げて行った人間の究極的な姿は調香師なのではないかと思う。現状においては香りのアートを展開してゆけるのは調香トレーニングの習得、もしくはそれが基礎的な部分において必要であることの認識が不可欠であると思われる。

筧さん自身はこの香りセンシングインタラクションに関して続編の製作も行ったが、興味の中心からは離れているのかなと思った。最近のワークショップで用いているのは、触覚再現をしてくれるモジュール。触覚に関しては意味合いの理解が分かり、再現されるものを発信したいメッセージに近くなるようコントロールしてゆくことが香りよりは容易である。触覚(振動含む)センサー技術の向上、再現モジュールの性能向上、パソコンの高性能化、解析に必要なソフトウェアの充実と実用上の性能が確保されつつあること、これらから五感に訴えるユーザー体験を簡単に作り出すことが簡単になった。筧さんたちメディアアートの役割は、このようなインタラクションとして技術革新によって達成されたものを還元し、ピュアアートや広告、エンターテイメント(ゲームなど)のシードへと繋げることにある。

嗅覚に関して、当面の問題としては、嗅覚や香りの中身がブラックボックス過ぎ、そこにある体験の意味合いの解釈に至らず、メッセージの発信まで繋がってゆかない、と言った。かつては音楽に関しても触覚に関しても、味覚に関しても、光に関しても、「有機的な結合感覚」を得ようとすることは困難だった。しかしいずれもセンシングとそれによる数値化に基づくユーザーインターフェースが開発され、パソコンを通じてクリエーターが製作物をコントロールしやすい状況が出現しつつある。

例えば音楽に関しては、ミックスやエフェクトを作ろうとしたりSR/PAをやろうとすると、高額なアナログ機器を揃え、電子回路の技術を習得し無くてはいけなかった。だがPCの高性能化とソフトウェアの開発によりそれらは容易になった。真空管アンプシュミレータなども充実している。音とは何なのか分かって、「有機的な結合感覚」をもってクリエイトする環境が容易に入手出きるようになった。この結果としてピュアアートや広告、エンターテイメント(ゲームなど)のレベルは今後より高度になってゆくと考えられる。

同様の事が今後、音楽のみならず、触覚に関しても、味覚に関しても、光に関しても、加速する。いずれもセンシングとそれによる数値化に基づくユーザーインターフェースが充実し、「有機的な結合感覚」を得るのは容易になってゆく。例えば味覚に関しては、5味センサーが実用化され、味のクリエーションや流通している商品のトレンド解析に役立ち始めている。触覚技術の向上によってゲームへの触覚再現のクオリティが向上する、などなどのことが実現する。

筧さんはラフなものでも良いからとりあえず魅力的な新技術を盛り込んだユーザーインターフェースを開発し、クリエーターに投げたい、と「ラビットプロトタイプ」、「ちょっと突破しやすくなるようなフック」という言葉を用いて_言っていた。いずれもセンシングとそれによる数値化、パソコンを通じてクリエーターが製作物をコントロールしやすい状況を出現させることが重要である。それらをベースとしてハンドリングしやすいユーザーインターフェースを開発する。それによって、特に言語化が困難なものであればあるほど、メッセージの発信まで繋がってゆかないクリエーションに対して、「有機的な結合感覚」を得ることを可能にする、クリティカルな答えになるのではないかと思う。

IBMのトップの発言に今後5年間ほどで触覚、味覚、そして嗅覚に関するインターフェースが発達し、コンピューターの世界で取り扱われる事が加速するとある。しかし嗅覚に関して、当面の問題としては、嗅覚や香りの中身がブラックボックス過ぎる事がある。そこにある体験の意味合いの解釈に至らないのである。自分のそれに対するソリューションとしては「要素臭の開発」を提唱する。センシングや分析を「要素臭」をキーとして読み直すことによってこの様なユーザーインターフェースの開発を推し進められると思うのである。その際に必要なものとしてはやはり生物学からのフィードバックを想定している。その世界は結構目の前にあり、後は誰が為すのかという問題だけだとも思う。

1.慶應義塾大学SFC 環境情報学部 筧康明研究室ウェブサイト | Website of Yasuaki Kakehi Laboratory, SFC, Keio University
2.魔女の実験室 MAKI UEDA artist blog
3.IBM による5つの未来予測:5年後のコンピューターは「匂い」「味」「触感」に対する認識能力が向上する - japan.internet.com テクノロジー
4.The IBM Next 5 in 5: Our 2012 Forecast of Inventions that Will Change the World Within Five Years « A Smarter Planet Blog (原文)

化粧品の展開、本業の研究、とりあえず俯瞰

(8/28修正・編集9/11、9/25)
自分の占いによると9月はまた再び色々なテーマに挑戦する月だそうである。8月の後半からは自分のポジションをアップしてゆく期間に入ったと書いてあって、まぁそうだったんだろうと思う。

香水のビジネスの話もきちんとした輸送会社が通せることが決まって、しかも値段的には従来使っていた香港の企業のルートの方が安く、こちらにとっても落ち度のないものだったというレベルの話になっている。これはなかなか運が良い展開である気がする。

本業の方でも先生のやりたいと思っている方向の研究計画をきちんと纏め上げられた。プレゼンは散々だったが、スライドの出来はなかなか良かったのである。それにスライドを纏めていく中で化学系の理論や原理からビルドアップしていく系と、ブラックボックスを残しつつもマイニングしていこうとする系の違いのようなものも明確化してきたように思う。

結局自分のやりたい研究の内容はその双方に跨っているのだと思う。マイニングにのみ依拠していてはやっていることはぶれてしまうかもしれないし、香気と嗅覚の根底に何があるのか考えていく中で見誤ると思われる。できる限りは理論と原理からのビルドアップであるべきだし、できない部分に関しては学習プログラムやマイニングによる抽出を計算機上で検証していくようなやり方しかないのだろうと思う。

さてそのような従来の研究手法では、ちょっと及ばないところに行ってしまう恐れのある研究分野なのだが、それらを上手につなぎ合わせていくためにも、研究室でマイニングのようなことを追求しつつ、自分自身だけでの研究やリサーチにおいては原理・仮定からのビルドアップをしていくための勉強をして行こうと考えている。

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化粧品の展開について。だいぶ輸送の手段など煮詰まってきている。あとは
・    順調に登録商品の品数を増やしていくプランがきちんとまわる
・    注文がどんどん入ってくるようなBtoBの営業力がつく
・    注文をさばける小売り能力・商品知識力がつく(おそらく香りと人物像のマッチングを考えることが出来るようになる=香りのパーソノロジー、が分かるようになる)が揃うと、仕事としては順調になるはずである。もちろん、自分の本業を研究として進めるならば、一定のところで、この仕事の主担当を自分以外の人間に割り当てて、その人間が責任者としてこの話の進展を進めていけるようにならないといけない。そんな資質を持った人間は化学系+マネージメント系で組むとか、法務・実務+接客で組むとか、ある程度人間を組み合わせて仕事が進む状況を作り出すことが必要なのだろうと思う。

自分としては、自分が直接会社の運営に携わろう、という考えはないが、自分と対になるような人間にやってもらって、その会社のノウハウ・上がってくる業界知識・運営知識を共有化できるような状況になってくれば良いと思っている。その意味では店長のようなタイプの接客・社交の強い人間をこのポジションに充てたいなと思うわけである。やはり自分の能力は、大きく考えて、踏み出して、仕事の形を作り上げるところにあるのではないか、と思っている。

またこの仕事は専属の人間がやるというよりは、退職して時間のある人がやるとか、主婦の人で社交能力・接客能力がある人がかなり長期にわたって仕事をして、その仕事能力を高めていくというプロセスを経る方が良い気がする。その帰結としては、給与は少なめ、ノルマも少なめ、拘束時間は少なめ、ただし相当長期にわたって会社とメンバーの関係は継続する、という形態になるだろうと思う。おっとりとした上昇志向の少ない接客好き・チーム好きで会社を組めれば安泰な気がする。

匂い嗅ぎGC、AEDA、aromatch

匂いの分析をする上で、GC1,aは最も幅広く用いられている手法だ。だが混合物組成が分かるだけであるので、なぜその匂いになるのか、が分かるわけではない。とりあえず「何が入っていたのか」というデータは有用だし、蓄積してゆくべき知見。もちろん、低沸点分子の生成経路を調査したり、未知化合物を発見し構造決定することは生物学的に有用だし、そのような蓄積は医学・生物学には必要…

地道ではあるが、その二つを結びつけるような研究もなされている。香気分析というものは「何が入っていた」という分析から「どんなものが強く働いているのか」という分析、さらには「どんなものが強く働いていて、その寄与はこんな傾向なのだ」という分析に移行してゆくべきであろう。

そもそも香気物質はそれぞれ異なる閾値を持っている。そのため、大量に含まれる香気物質が香気のイメージに重要かというと、そうでない場合も多い。そのような微量で香気に大きな影響を及ぼす香気物質を、キー成分などと強調して呼ぶ。特異な分子構造を持っていることも多いb

香気イメージへの寄与の検討方法についてキーワードの説明をしてみる。

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「匂い嗅ぎGC(Sniff-GC)は、キャピラリカラムの出口を分岐し、一方を検出器に、他方を匂い嗅ぎポートに接続し、検出器によるクロマトグラムの取り込みと各ピークの匂い嗅ぎ(人間が嗅ぐ)を同時に行い、各成分の匂いの質を明らかにする」2ための装置である。匂い嗅ぎGC(Sniff-GC)はガスクロマトグラフィー-オルファクトメトリー(GC-オルファクトメトリー、GC-O)という呼称が使われることもある。検出器によるクロマトグラフィー結果が「クロマトグラム」と呼ばれるのに対して、匂い嗅ぎによるクロマトグラフィー結果を「アロマグラム」と呼ぶ(ただしこのカテゴリ、呼称は未統一)。

AEDA法とは、無臭空気で段階的に希釈し官能ガスクロマトグラフィーを行い、最も希釈されたサンプルでもニオイとして検知された成分を探す方法である(「香りのメカニズムとその測定・分析、評価技術」技術情報協会,p.96-97, (1999))。匂いの強度(寄与率)を数値化することが出来る2,3

OASIS、AROMATCH4,5,cは曽田香料が特許等で主張してきた手法である。GC-Oの出口から出てくる香気と原材料の香気を気相中で混合して評価する。GCは香気成分がそれぞれ特定の時間で分離され出てくるので、それを分離され出てくる時間時間で調合品の香気のイメージがどのように変化しているかを官能評価すれば、その調合品における単品香料素材の役割が分かるようになる。

1.香気成分分析 - JPO
2.GERSTEL 社匂い嗅ぎ装置の紹介 及びアプリケーション
3.小川香料|研究開発|研究レポート|茶飲料フレーバーに関する研究|関連論文No.1
4.Instructions for use Title 新規評価方法...
5.フレーバー分析と能

a.aromaphilia: ガスクロ(GC)に関する基礎知識的なメモ
b.aromaphilia: 硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」
c.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21)

メモ;嗅神経細胞軸索投射・神経回路が形成システム、に関して補足

(4/20調べ足し)嗅神経細胞軸索投射の分子機構を理解…嗅球で嗅神経細胞からの入力依存的に特異的な神経回路が形成される仕組み…の続編 前投稿

その後、初心者でもわかりやすく書かれたレビューを見てみた (嗅覚受容体に依存した軸索投射の分子機構;生化学79, 12, p.1152)1。ハエは少ないORで脳の機関もさほど大規模ではなく、遺伝子発現によるタンパク生成も神経系への軸索の延伸も遺伝的プログラムに沿って展開するいわばプログラム化された嗅覚情報処理系である。

それに対して、マウスなどの哺乳類では、ORは1000種類存在していて発現しないものもある(遺伝子の発現はstochastic;確率的に決まるとしている)、脳も十分大きく、神経接続の特異性はORから入力されるシグナルの強さに応じてフレキシブルに決定してゆくとされている。

哺乳類のような生物の感覚器ではOR遺伝子が新規に作られると新たな神経投射先が作られ、新たなにおいの識別が可能となる。(この結果は外池先生の講義中に紹介された論文で見いだされた現象とも一致する)  昆虫のような生物進化上“古い”生物では感覚器の性能のチューニングは為されない。それに対して世代交代サイクルが割と長い哺乳類のような生物の感覚器は、数世代程度の間に感覚器の性能のチューニングが必要になるのであろうと思う。おそらく生物の感覚器としての性能の方向性の差が表れている。昆虫のように世代交代が早ければ、突然変異によって環境の変化に対応すればよい。哺乳類などにおいては脳・神経系のネットワークの組み換えによって、環境の変化に対応しているのではと思われる。加えて人間の場合、言語による識別を脳内で行うことにより、さらに認知が深くなり香りの区別、分別のの力がより一層高まってゆくのではないかと考えられる(このために検証しなくてはいけないのは言語認知学、脳科学や心理学的手法と組み合わせられたものを、研究するのがよいと思う)。

この研究グループでは、脳内・神経回路がどのように獲得されるのかに関して、「末端の刺激受容細胞からの入力によって、脳内に新規な感覚処理(して認識)する新規神経回路が形成されうる」ことを示している。これを検証するために、マウスや哺乳類の嗅覚系の発生学、神経回路形成についての研究を進展させてゆこうとしているようだ。

a.aromaphilia: メモ;(理研CDB)理化学研究所|研究室の紹介|感覚神経回路形成研究チーム のテーマをチラ見してみた
1.嗅覚受容体に依存した軸索投射の分子機構

メモ;(理研CDB)理化学研究所|研究室の紹介|感覚神経回路形成研究チーム のテーマをチラ見してみた

「感覚神経回路形成研究チーム(Laboratory for Sensory Circuit Formation; 今井 猛 チームリーダー)は、
・ われわれの複雑な脳はどのようにして作られるのか?
・ 哺乳類の脳に嗅覚地図がつくられるしくみ
・ 末梢からの入力に依存して生じる神経回路形成
・ 神経回路を見る、操る
2,8という切り口で主に神経回路の研究を進めているようだ。

「膨大な数の神経細胞からなる哺乳類の神経系が発生する際、神経細胞はどのようにして多様化し、また多様な神経細胞はどのようにして整然と配線するのだろうか?これまで一般的に、神経細胞の個性は遺伝的プログラムによって規定され、神経接続の特異性は「鍵と鍵穴」に相当する分子によって保証されていると考えられてきました。しかしながら、マウス嗅覚系はより「柔軟」にできており、末梢からの入力に依存して嗅神経細胞の個性が規定され、それに基づいて自己組織化的に嗅覚マップが作られることが分かってきています。当研究室では、嗅覚受容体依存的に生じる嗅神経細胞軸索投射の分子機構を理解するとともに、嗅球で嗅神経細胞からの入力依存的に特異的な神経回路が形成される仕組みを明らかにしたいと考えています。」1

嗅覚と脳に関してのセミナーで、外池先生の講義を聞いたときに、調香トレーニングを受けていない新人と、調香への在職歴が長いベテランの、同じ香気への脳の反応を比較検討した研究例が紹介された。「脳内スキャン観察の結果、脳内の活動領域が二つのグループで異なっていたことだった。生徒のグループでは、意識的な知覚をつかさどる前頭葉に活動が集中していたが、ベテラングループでは、記憶の想起や心的イメージをつかさどる海馬傍回でニューロンの活発な動きがみられた。」6,7

嗅覚刺激に対して脳が成長してゆくことを両研究は別々の研究手法によって捉えているのではないか?現段階ではメモ。もう少し詳しく見てみる。紹介は暫定的なものとして考えてください。

1.理化学研究所|研究室の紹介|感覚神経回路形成研究チーム
2.理研CDB 感覚神経回路形成研究チーム
3.11/12/12外池光雄「最近の脳研究から匂いの脳活動はどこまで解明されたか」
4.aromaphilia: メモ;色々な香り研究の先駆者 (外池光雄)
5.|書籍|(香り選書 17)匂いとヒトの脳 〈脳内の匂い情報処理〉|フレグランスジャーナル社 p.56
6.調香師の「飛びぬけた嗅覚」は訓練の賜物、仏研究 国際ニュース : AFPBB News
7.Human Brain Mapping, Volume 33, Issue 1, pages 224–234, January 2012 PDF (1041K)
8.軸索間相互作用に基づく神経地図形成のロジック
*.嗅覚受容体に依存した軸索投射の分子機構

メモ;化学刺激と生体受容体の相互作用に関してホストゲスト科学の観点から見る

嗅覚受容体は今まで見てきたように、他の化学刺激と比較して、低選択性で(おそらく)低親和性の受容体挙動を示している。

他の化学刺激というのは、フェロモンやホルモンの受容体/受容細胞の応答などを考えている。具体的に言うと、「フェロモン(pheromone)は、動物または微生物が体内で生成して体外に分泌後、同種の他の個体に一定の行動や発育の変化を促す生理活性物質」1であるのだが、フェロモン~フェロモン受容体の相互作用はとても選択性が高く、フェロモン分子の化学構造が少し異なる異性体においては、フェロモンとしての活性が著しく低下する。このような特性は生殖挙動などの生物における、重要な個体間の関係を形成する上で重要となっている。

また、「ホルモン(ドイツ語: Hormon、英語: hormone)とは、動物の体内において、ある決まった器官で合成・分泌され、体液(血液)を通して体内を循環し、別の決まった器官でその効果を発揮する生理活性物質」2のことである。(かなり乱暴な説明であるが) 作用は同じ個体内で起こる点がフェロモンと異なる。どちらも濃度は非常に微量であり、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質である。

フェロモンは生物個体間での情報伝達で使用される情報伝達物質であるので、水生生物では主に水溶性、陸上生物では揮発性が一定以上必要である。これに対して、ホルモンは個体内で活躍する情報伝達物質であるので、水溶性はある程度必要3であるが、揮発性は必要ではない。ただしどちらの場合にも必要とされる性質は、情報伝達分子~受容体における高い選択性である。その特定の構造を持つ情報伝達分子に対してのみ受容体が結合しシグナルを発さなくてはならない4

さて、上記のような情報伝達物質から化学刺激物質まで様々な化合物が生物の廻りにあふれているわけだが、それらを一覧化すると以下のようになると思う。

情報伝達物質
化学刺激物質
機能
器官(ヒトの場合)
(媒体)
(存在濃度)
化合物の特色
フェロモン
個体間情報伝達
鋤鼻器(又は鼻)
気相
極微量
ある程度の揮発性
mid~high MW
high selective
ホルモン
個体内情報伝達
生体内各器官
生体内(主に水系)
極微量
ある程度の溶解性
mid~high MW
high selective
(味覚刺激物質)
味覚(味”と
考えられている)
鼻、嗅球
水系
%~ppm
ある程度の水溶性
low~mid MW
~mid~ selective
匂い(嗅覚刺激物質)
香り
舌、味蕾
気相
ppm
揮発性
low MW
low selective
水生生物にとっての匂い
水系
(ppm ?)
水溶性
low MW
low selective

6,8

参考;
1.フェロモン - Wikipedia
2.ホルモン - Wikipedia
3.(脂溶系の循環で伝達されたり、ミセル出で運搬されたりという場合もあるだろうから一概には言えない)
4.(相互作用は起こりえても良い、ただし受容細胞の系がシグナルを発してはいけない。おそらく受容体は類似物質に対しても親和性を発揮してしまうかもしれないが、その際にコンフォメーション変化が真のターゲット分子とは別のコンフォメーション変化であり、その後に続くカスケードな情報伝達の化学作用が起こらないようになっていればよい、これは阻害剤5の考え方でもある)
5.(例)酵素阻害剤 - Wikipedia
6.老年者における四基本味の味覚閾値の変化
7.(「味覚は…摂食時であり、対象は食料であり、それが飲食可能であるかを判断 し、また摂食時の楽しみでもある。ヒトの場合のそれは舌にあり、嘗めることで味を確かめる…」8)
8.味覚 - Wikipedia
老年者における四基本味の味覚閾値の変化

a.フレグランスクリエーション
b.フレーバークリエーション
c.茶席で香水はつけられるのか
d.澁谷達明「匂いと香りの科学」朝倉書店 (2007/02)1

フレーバークリエーション

博士課程志願のからみでスライドを準備した。結局のところ、香りを作るとは何なのか?それを説明する必要があった。その際考察して準備した内容に関して転記しておく。

フレーバーの処方作りにおいては、「創造」という言葉よりは、天然物の「模倣」という言葉がふさわしいと思う、アイディアを盛り込んで美味しさを追及する面ももちろん重要なので「クリエーション」・「創作」という言葉が相応しいのではないだろうか。

フレーバーとは「食品の香り、味、食感など口に入れた時に生じる感覚をまとめていう言葉。香味。」のこと。香料としては食品に用いる香料を指す。飲料用、製菓用(キャンデー、チューインガム、クッキーなど)、乳製品(クリームやマーガリンなど)、セイボリー(調味食品用;スナック類の味付け等)。他にも一般には知られることは少ないが、「たばこ用」や「飼料用」においても香料が用いられており、これらも「フレーバー」の範疇になる。

フレーバークリエーションにおいては、現実の食品をターゲットとしていて、リアリティある再現を狙う。フレーバークリエーションにおいて使う香料原料としては以下のものがある。
・脂肪族カルボン酸
・エステル
・ボディノート(ラクトン、フローラル、スィート)
・匂い自体は弱いが、味に効く原料

フレグランスでは酸・エステルを極微量しか用いないが、フレーバー用途の香料は、酸・エステルをかなり用いる。天然に見出されている化合物を用いて香料は構成される。反面、フレグランスには非天然合成香料が使用可能、特殊なグリーンノートやムスクやアンバーやウッディ素材が用いられる。

フレーバーにおいては直接食品から立ち上る香りだけではなく、レトロネイザル香気(咀嚼時のどの奥から中を通ってくる香気)が重要である。

フレグランスが、肌に残る残香も良い香りである必要があるのとは対照的に、フレーバーは口腔中において一気に現れ香味を演出する必要がある。フレグランス用途の香料には保留効果の高いラストノートを用いる。これに対してフレーバーではラストノートを多くしすぎてしまうと、味がくどくなってしまうので、フレグランス的な区分けで言うトップノートやミドルノート位の揮発性を持つ香料が用いられる。

フレーバークリエーションの作成時のイメージとしては
・強い香料でしっかりした骨格を作る
・枝葉の装飾は、しっかりした骨格を作ってからつける
・軸がしっかりした強い特性を持った調合香料
→調合ベースとして用いることが出来る

フレーバークリエーションにおいては香気分析がかなり重要なインフォメーションを与える。しかし実際の香気寄与が低いにもかかわらず大量に含まれている“バルク”の香気成分ばかりを用いると、香料としての“力価”の低い香料しか得られない。フレーバークリエーションにおいては低閾値ストロング成分、重要な寄与を与える成分を、中心に考える必要がある。強い成分は誇張しつつ、バランスは損なわれず、バルク成分を違和感なく削ぎ落としたコンパウンドを得る方向というものが、望ましいフレーバークリエーションである。強く、寄与も大きい香気成分で骨格を作った上で特徴を作り出す枝葉をつけ、肉付けを調製して行く、というのが官能評価を交えたフレーバークリエーションの実際作業になる。

フレーバークリエーションを行ってゆくと、ベース作成というものに行き着く。同じテーマであっても、○○タイプ、△△タイプというように細分化されたテーマとして追及しておき、その後それぞれのベースのバランス調整でいろいろなオーダーに対応することが可能となる。例えば、フルーツでもあくの強いタイプ、グリーンノートの強いタイプ、発酵感・完熟感を追及したタイプ、加熱調理したタイプ…というように色々準備しておけば様々なオーダーに対応が可能だ。またベースを利用すると、香料がイミテーションされにくい、という性質もある。

微量ストロング成分については、分析化学的に進歩してきたところと言える。分析技術の進展で見出される、微量ストロング成分を合成(製造)し、よりリアリティある香気を再現する。従来の分析ではなかなか見つけることが出来なかった低閾値ストロング成分が新たに見出されることで、よりリアリティある香気開発が可能になる(その低閾値成分を盛り込んだ力価の高い香料開発が出来ているかは、また別の問題だが)。

*微量ストロング成分以前の技術としては酵素処理フレーバーのような呈味と匂いの間くらいの香気(レトロネイザル香気に利く香気)開発が重要であった時期もある

1.Flavor Creation, 2nd Edition現物内容確認していないが、この本に上記大概の内容載っていると思う

a.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21)
b.aromaphilia: 「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」蟹沢 恒好 (フレグランスジャーナル社2010年10月)

フレグランスクリエーション

(前回に引き続き;博士課程志願のからみでスライドを準備した。結局のところ、香りを作るとは何なのか?それを説明する必要があった。その際考察して準備した内容に関して転記しておく。)

フレグランスの究極的な目的は、清潔感の演出、色気の演出、にある。その効果を狙ってオリジナルの香りを創造する。重要なのは「調和感」とイメージの演出になる。

イメージの演出とは、フレグランス史の文脈における香りの表現のことである。調香の中にどんなアコードを感じられるか?そしてそのアコードの記憶は香水や昔使っていた化粧品の記憶に繋がっている。嗅いだときに知っている香りだったり、今まで見てきた中で良い香りと意識させられたり、逆に「嗅いだことない、苦手かも」と感じてしまったり、色々な意識が立ち上ってくる。

さて、フレグランスの調香のためのトレーニングもフレーバーのものと似ていて、まず単品香料の記憶、少点数の原料からのアコードの習得、簡易化された処方の習得から始められる。
◆香料のニオイを記憶する実習(単品香料 天然・合成)
◆香料を混ぜ合わせ、調合香料を作る調香実習
◆調香した香料を食品や化粧品に付香して商品化するアプリケーション技術

香料を混ぜ合わせた時の匂いの変化は
• バラバラに出る
• 一つのイメージになる(強くなる)
• 一つのイメージになる(弱くなる)
• 別のイメージになる
という4つがある。このうちアコードとして記憶すべきなのは強くなる場合と、新しいイメージに結像する場合である。これらの積み重ね、またはこのような方法論で、良い匂いは開発・開拓される。

香調とアコードの関係の話に付け加えておくと、ファッションの最先端となるような斬新で市場を席巻した香水が出現すると、その香調はイミテーションされ、香調はシャンプーのようなより低価格のトイレタリー商品に波及する。従って、フレグランスにおいて真に求められるのは斬新な香調の開発になる。斬新な香調は、今までなかった良アコードから作り出される、全く試されていなかった組合せから新アコードが出てくることもあるし、新規合成ケミカルを使った新アコードを導入するなどの場合もある。

フレグランスに関してはアコード以外に良く見かける三角の図(トップ、ミドル、ラスト)がある。これは最初にトップノートが香り、その次に香水のメインの部分であるミドルが香り、最後にラスト(ベース)ノートが香ります、という説明だと思われがちだが、それは半分くらいしか合っていない。「アコードの補助」という考え方として、保留剤で持続時間を長くし、香調変化をマイルドにするという考え方と、トップノートの付与で香りを強くし全体の立ち方を向上させるという考え方があり、これが残り半分だと思う。化学で言うと“共沸”的な考え方である。

またこの図は余り有名ではないのだが、良いアコードを見出したとき、そのアコードを微調整しブラッシュアップしてゆく必要がある。同じ系統の香料をどう使い分けるのか、ベースとして組むとき何に注意するのか、細かいモディファイアーをどう使いこなしてゆくのか、これらを考える際にとても役に立つ。尖がった所をなくしてゆく、間を埋められるようにして丸い仕上がりにあるようにしてゆく、硬いものと軟らかいものを使い分けて組合してゆく。このときの使いこなしのイメージはこの図のような組み方である。

1.Amazon.co.jp: 香りの創造―調香技術の理論と実際: ロバート・R. カルキン, J.シュテファン イェリネック, Robert R. Calkin, J.Stephan Jellinek, 狩野 博美: 本 図引用ここから

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