(メモ)要素臭と香りの情報化

自分にとっての研究成果とは…嗅覚コーディングを明らかにして、要素臭開発手法を確立することだと思う。

要素臭がわかったら何が出来るのか?実際の嗅覚ディスプレイに使用することは結構困難であろう。恐らく香りをセットして多彩な香りの演出をし、エンターテイメントとして利用しようとすれば、10種類や20種類では不足となる、実際のエンターテイメントでの利用はやはりすでに調合済みの香りをセットしておき、 それを必要に応じて順に使用する方が現実的と考えられる。

それでは要素臭は何に利 用できるのかというと、香り情報のやり取りの促進である。香りを科学的なベースでその情報をやり取りすることで、明瞭に香りに関する情報がやり取りでき る。香りにおける情報発信はこれまで香料産業に携わる一部の人間のみが調香の成果として商品流通をさせられるのみだったのが、香りの構造をデータとして流通させられる ことによって、自由に香り情報がやり取りできる。


そのためにどのポイントを香気受容のプライマリーレベルと置くのかは重要となる。香気受容は学習によって、加齢と共に発展すると考えられ、脳内でのコーディ ングも、嗅球でのコーディングも現実的にはファジーなものとなってしまうと考えられる。したがってベースとするべきは、真のプライマリーレベルである受容 タンパクとの相互作用性に論拠するべきではないかと考える。実際にそのアクティビティを定量することは困難で、神経応答としてデータ取得することになると 考えられる。

さて、現在昆虫の全嗅覚受容神経細胞群の応答を取得することはできている。ただし、哺乳類のそれは取得が困難である。その理由は、

  1. 神経細胞の機能が再現困難であること
  2. 受容細胞のバラエティが昆虫よりも種類豊富なこと

にある。前者の理由は哺乳類の受容タンパクがGPCRファミリーであるためである。GPCRファミリーはそのタンパクのみでイオンチャンネルまでの 機能が完結するわけではない。同時にそれは細胞内のコンディションなどにもそのアクティビティが左右されることを示している。種類がより多いことは全受容 細胞の挙動を取得することが困難であることを意味する。個々の細胞の安定発現は種別に異なると考えられ、難易度は高い。またそれに対する化学刺激の提示と 応答観測は種類が増えるほどに手数が増すことを示している。

特に哺乳類の嗅覚系にたいして、有用になるのではないかと考えられるのが、遺伝情報の活用である。遺伝情報をベースに受容タンパク質の挙動特性を解析する系を確立することで、不完 全な嗅覚受容神経細胞群の応答挙動から全嗅覚受容細胞群の挙動を予測する。もちろんサブファミリーの存在などは問題解決の難易度を上げると考えられるが、 この研究の波及効果は高いと考えられる。創薬テーマの中にGPCRターゲット創薬というものがある。そのためにも、このデータベースを解析する技術を開発することは有用である。

もちろん前提条件として必要なことは、オドラント・ターゲット(ゲスト)分子の分子構造を数値評価、線形表現できる系が必要である。その二者が揃ったとき、解析系が確立したとき、嗅覚コーディング解析が確立に近づくと考えている。

研究成果とは何か?それは嗅覚コーディングを明らかにして、要素臭開発手法を確立することだと思う(このまま流されて2,3年なんの成果も出ないなんていう状態に陥ることは避けなくてはいけない)。

aromaphilia: 香りインタラクションについて少々考えてみる
aromaphilia: 現状の研究興味 (研究室外のテーマ)
aromaphilia: 香気の受容系におけるコーディング、とは?

olf. in silico.: (研究テーマ) 生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する 1/2
olf. in silico.: (研究テーマ) 生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する 2/2

コメントを残す