(研究テーマ) 生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する 3/3

『要素臭(の開発)』というテーマを当初立ち上げていた。考えていることが大きく変わったわけではないのだが、より同業者にとって正確に自分の研究 内容が伝わるような表現、『生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する』と言う言葉、で研究を推進したいと思っており、そちらを なるべく使用するようにする。

マイニング系で嗅覚のコーディングを解析できないかと考えている。そのことを説明してみる。

データの解析から受容系ファミリーの挙動を一貫してプレディクトできないか

(香気に対する受容体群の挙動について)ブラックボックスを抱えたままながら、情報を集積することによって、マイニングのようにコーディングの偏りは解明でき るのではないか、と考えている。純粋な理論だった化学とは異なる方向からアプローチする事を考えているのである。当初は理学的なビルドアップによるアプ ローチから要素臭が抽出できると考えていた。だが香気受容体の生成メカニズムも完全解明されているわけではない。動物種による差異やコーディングの偏りと いう物がありそうな気がしている。だが、神経生物学の収集した香気応答データや遺伝子工学の集めたGPCR挙動データが有用なのではないかとも考えるし、 量子化学計算の結果をマイニングの指標として利用する事も可能だろうと思う。もちろんマイニング材料は様々なところから用意することが可能であるはずだ。

(バイオインフォマティックス的手法を応用して受容体タンパク質の特徴を抽出する)
遺伝子データライブラリを利用するバイオインフォマティックス / ゲノミクスによる嗅覚受容体のマイニング研究はおもしろそうだな、と思っている。今回文献紹介ではそのような文献が見つかったので、それを紹介する。リ ファレンスをきちんと読み込むことで、以下の研究題材に関してもレビュー化したいと考えている。

  • GPCR / IRのような一連の類似構造を持つたんぱく質群に対してマイニングを掛けたり、情報抽出したりしようとした研究例、その抽出情報と現実のたんぱく質機能はどれほどの相関性があったのか?
  • たんぱく質情報にマイニングを掛けるという研究は具体的にはどのようなプロセスを経るのか、その手法の検討事例
  • 嗅覚情報についての統計解析(たんぱく質構造類似度指標~実際の香気コーディングにどれほどの相関性が見出されているのか)

香りの受容メカニズムにおいて、嗅覚細胞上の嗅覚受容タンパク質(哺乳類の場合はGPCR)は動物種によって異なるが、10-1000種類くらい存在して いる。それに対して香気分子種は10000種以上(要出典)といわれている。このたんぱく質の香気物質に対する選択性は、ある程度の選択性を持っているも のの、フェロモン~フェロモン受容タンパク質ほどの鋭敏な選択性を示すわけではない。これはホストゲスト科学でもよく見られる傾向で、低分子量の化合物・ 水素結合部位の少ない化合物においては、選択性の低い包接挙動しか観測できなかったりする。香気分子は低揮発性でかつ疎水性であるので当然選択性は低くて しかるべきであろう。だがそれでも、嗅覚受容細胞は応答し、信号を発し、複数の経路から得られた信号アレイは脳内で処理され、香気の認識・知覚となる。こ のような実際の生物の挙動を解釈する際に、香りの科学をやってゆく上で、このホストゲスト科学を意識することは解釈に近づく一歩になるのではないか、と考 えている。

塩基配列などの生体情報から、何らかの結論をマイニ ングして来るような、バイオインフォマティクスのようなことが出来ないかと考えている。それは化学インフォマティックスのような名前であろうと思 う。そしてこれらの技術基礎は従来より行われてきた古典的な化学情報学の手法に立脚するものの、為そうとしていることは情報の整理・統合環境づくりという よりは、その集積からのマイニングになる。これまで化学情報学においてマイニングという言葉が出てきたことはほとんどなかった。しかしながら、このマイニ ングという観点からソフトウェア上に研究を組み立てられないか、と考えている。

このマイニング系で嗅覚のコーディングを解析できないかと考えている。化学情報学的な表記方法で香気分子の構造やタンパク質の情報を記述して評価する。今 回この方法が使えるかもしれないと考えたのは、嗅覚受容タンパク質の構造が一連のファミリーになっていて、受容後の細胞内メカニズムの類似性も期待できた からである。

なおこのマイニング系の有用性が確認されれば、製薬におけるフラグメント~生体活性などもある程度の情報の蓄積から判断できるようになるのではないだろう か?製薬における薬理受容体はGPCR群であり、薬理フラグメントとGPCR系タンパクの構造の相互作用係数の相関が明確になれば、ターゲットGPCRか ら薬理活性な分子デザインへと繋げていけるかもしれない。もちろんマイニング材料に量子化学計算の結果や分子動力学法による結果も含めることで、より高い 精度のマイニングが可能になって行くとも思われる。

(続くかも)

ref.
1. aromaphilia: 自分の研究、自分の役割
2. aromaphilia: 香気の受容系におけるコーディング、とは?
3. aromaphilia: 現状の研究興味 (研究室外のテーマ)

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