立つ香り、沈む香り

調香のセンスの一環になるのだが、「立つ香り」というものがある。香りが立つこと、拡散力があること、パワーがあることについて考察してみる。

トップノート、ミドルノート、ラストノートという次元以前の話になるが、調香の世界では少しでも強い香りが好まれる。少量付けただけでも、明確にそれと分かる香り、飛び出してくる香り、部屋中に広がる香り、他の匂いをかき消して良い匂いにしてくれる香りというものが求められている。香水のようなピュアフレグランスならいざ知らず、シャンプーや石鹸のような元々良い匂いではないもののを出来るだけ少量の香料で基材の匂いを塗りつぶし、良い香りの香粧品に仕上げないといけない。そこで重要になってくるのが立つ香りである。

また別の面もあって、立つ匂いは、良い香りとも別の次元の話である。あまり良い匂いとは言えず、人によっては「臭い」と感じてしまうような立つ匂いもまた作れるし、多くの人が「良い匂い」と評しつつも立たない匂いも作れる。しかし、立つ匂いは「立つ」というだけで十分な利用価値がある。例えば洗剤などは「いつまでも嗅いでいたい」と思わなくても、洗濯中に「綺麗になっている感」があって、洗い上がりにほんのりとした残り香がしていれば良い。洗濯中に広がる洗剤の匂いが弱かったり、洗剤の原料の臭いがしたりしてはいけないのだ(正確に言うと国・文化によって相対的に強い匂いが好まれたり、強すぎる匂いが好まれなかったりという差は生じてくるのだが)。

さらに話は続くのだが、お金を掛けたから立つ良い匂いが作れるというわけでもない。洗剤の話とも重なるのだが、材料費が安くても立つ匂いが作れたりする。また天然原料の使用の有無も理論的には関係がない(天然原料はそれ自体が「立つ」匂いであることが多いので、「立つ」香りを調香し易くなる)。

色々試しては見るが、良い香りになる代わりに自分の調香した香りが沈む香りになり始めたり、難しい点は多い。現在色々と試して見る際の、留意点の一つである。

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