茶の香気を尊重する菓子、嗜好品の時間における香りの調和

いったん香りから離れて茶を中心に嗜好品の中にある調和について考えてみる。

嗜好品の時間は日常の中に紛れ込んだ非日常の時間であり、異国から取り寄せた品々を楽しんだり、領内の名品を楽しんだりする。名品を色々そろえて楽しむ場合に、特に重要になるのが「取り合わせ」である。互いのよさを打ち消しあってしまわないように、片方だけが目立ってしまわないように取り合わせには注意をする。お菓子とお茶の組み合わせに注意する。酒と肴の組み合わせに注意する。器が食べ物・飲み物を損じないように注意する。などなど。

飲茶の工夫を凝らした甘い菓子と、花の香りの豊かな茶の組み合わせ。口の中でさっと溶ける上白糖を多用した和菓子と、パワフルなコク・苦味・清々しい後味をもたらす抹茶の組み合わせ。良い生乳から得られるクリームと程よくスパイスの効いた焼き菓子と、紅茶の組み合わせ。乳製品と小麦粉を多用したケーキとコーヒーの組み合わせ。これらには互恵関係あるいは補完関係とも言える調和がある。

さてこれらには呈味に限定されない調和があると思う。香気に関してみてみても、そこに調和が考えられていることが見て取れるように僕には思える。発酵茶の花の香りには油脂の香りも、ココナツやオールスパイスの甘い香りもマッチするために菓子に多様な材料を用いる。コーヒーにはスパイス類(たとえばスパイスが沢山入った焼き菓子など)やフルーツ特にラクトンリッチなフルーツが合わないので、そのような菓子は避ける(フルーツは酸もエステルもマッチしないが、かなり冷たく冷やしたジェラートのみが例外か…但し合うコーヒーはロースト香が濃厚なエスプレッソだ)。発酵させない日本の緑茶(抹茶含む)はグリーンノートと飲んだ後の爽快感が至上であるので、和菓子にはその香りを損なうような油脂や香辛料はほとんど使わない。

このように羅列してみると、茶の香気と菓子の香気の組み合わせにはかなり限定があることが分かる。相互に良さを打ち消さない組み合わせのみが許されているといった感じだ。しかしこの組み合わせは多くの人たちが試行してきた組み合わせの中の調和例なので、今その組み合わせで茶と菓子が供されてもその調和感はすばらしい。

呈味にしても香気にしても古くからある組み合わせにはそれ相応の確固たる調和があるのではあるまいか?本物を本式のやり方で味わうということが重要なのだと思う。

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なお日本の茶道に関しては誕生の経緯が複雑であるので海外の喫茶文化と並列に並べると制約の多さのために「菓子と茶を楽しむ喫茶」とは別物なのではないかという錯覚を覚える人も多いのではないかと思う。日本の茶道の成立要件をかなり乱暴に述べると、

·中国伝来の器を珍重する文化がそもそもあった
·過剰な装飾を禁じると同時に客への表敬と所作の簡素化を研鑽した(過剰な装飾へのアンチテーゼが簡素な茶室、楽茶碗をはじめとする道具立てに繋がった)
·客に供するものの中で最も重要なものは抹茶である(器が優先な場合もあるが、通常菓子は茶以下)

であって、学べば学んだだけその調和が考えられたものであることが分かり面白い、と筆者は考えている。

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注)この表題のテーマは自分自身「茶道」を齧った事があったために、前から関心があって、きちんと調べてきちんと書きたいと思っていた内容。リファレンスなどもぼちぼち集めて行きたいと思っている。

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