かるかんと薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)

○かるかん
かるかん、とは古くは鹿児島、現在では九州を代表する菓子のひとつである。ネットをみているとある程度の知名度はあるが、本州(四国・北海道含む)ではまだまだ販売数は少なそうである。古典的なものは羊羹、もしくはカステラの形状をしていて、「生地」のみだが、現在それ以上に流通していると思われるのが餡を入れた饅頭状のものである。1, 2, 3)

鹿児島の老舗菓子店のウェブページ2)には以下のように説明してある。
「原材料に自然薯(山芋)をふんだんに使った羊羹(棒羊羹)のかたちをした和菓子。空気をたっぷり含んで蒸されるため、ふんわり柔らかい。饅頭などの他の和菓子に比べても際立って白く、…口に運ぶとまろやかな甘さが広がる、小麦粉だけで作られた蒸し菓子とは違った自然薯(天然の山芋)のもつ香ばしさが飽きさせない。…真っ白な姿からは想像つかないほどのしっかりと主張とコクのある味。…「軽羹」の名前の由来は諸説ありますが、その中に「軽い羹」という意味からきたという説があります。…」

製法についてはウィキペディア1)の方が解りやすく纏まっている。
「原料としては、かるかん粉、砂糖、山芋を用いる。かるかん粉は米の粉である…。山芋については、やまと芋(ナガイモ)などよりも自然薯(ヤマノイモ)が適しているとされる。これらの原料に水を加えて蒸し、弾力性の有る白色の半スポンジ様に仕上げたのが軽羹である。…」

○ヤム芋(ヤマノイモ)
なお、よく間違いやすい「山芋」。これには全く植物として異なる2種が混同されがちである。さらにそれぞれ地方によって呼称が異なるので長文になるが整理する。4, 5, 6, 7)

ヤマノイモ(山の芋、学名:Dioscorea japonica)…は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性多年草。本州から四国・九州および、朝鮮半島、中国に分布する雌雄異株のつる植物で、元来は野生の植物であり、現在ではむかごの状態から畑で栽培されており、流通しているのは栽培ものが多い。一名ジネンジョウ、ヤマイモ、エグイモ、ジネンジョ、サンヤク、ヤマツイモ等地方により異名あり。

赤土土壌で採れたものが、風味がよいとされる。

基本的に、ナガイモと同じような食べ方をするが、風味にはやはり違いがある。ナガイモと比較すると遥かに粘り気が強く、普通にすりおろしただけだと餅や団子のようになり食べづらいため、出汁などを加えてのばす方法が一般的である。かるかん、きんとんなど、和菓子の材料にもなる。

○ヤム芋(長芋)
ナガイモ(長芋)は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属の Dioscorea batatas。シノニムとして D. polystachya、D. opposita などがある。利用法によっては漢名の山薬(さんやく)、薯蕷(しょよ)、英語名のチャイニーズヤム (Chinese yam) でも呼ばれるが、ヤマノイモ属の食用種の総称ヤム(yam)をヤマノイモ、ヤマイモと訳すことがある。しばしばナガイモ(長芋)はヤマノイモ、ヤマイモと呼ばれるために混同する(ヤマトイモという呼び名もあるが地域によって意味が異なり、ツクネイモまたはイチョウイモをさす)。

中国原産で、日本へは17世紀以前に渡来した。最も高緯度で栽培されるヤムイモのひとつである。雌雄異株のつる植物で、夏に花を付ける。ナガイモはヤマノイモ(自然薯)と異なり日本原産の野菜ではなく、また山野に野生化することも無い。また、染色体の数も異なる。

芋の形状その他により数種類の品種群に分類されている。ただし、品種として完全に分かれているわけではなく、たとえばナガイモからツクネイモが収れたりすることもある。

・ナガイモ群…円柱状の芋を持つ。芋の粘りは少なく、きめも粗いが、生産は比較的容易。主な産地は青森県上北地方、北海道帯広市、幕別町、長野県中信・北信地方など。近年では、ヒゲ根や毛穴がほとんどなく、皮ごと調理可能なナガイモが品種登録されている。
・ツクネイモ群…芋は丸みを帯びる。粘り、きめの細かさがナガイモやイチョウイモよりも強く、ヤマノイモ(自然薯)と並び、最も美味とされる。主な産地は兵庫県丹波市・篠山市(黒皮種の丹波ヤマノイモ)、奈良県・三重県(白皮種の大和イモ、伊勢イモ)。
・イチョウイモ群…芋は扁形で、下は広がる(イチョウ形)。ナガイモよりは粘りが強い。主な産地は群馬県太田市尾島地区(大和イモ)。

ヤマノイモ同様、長く伸びる芋を食用にし、すりおろしてとろろにする調理法が代表的。これは、澱粉質を分解する消化酵素であるジアスターゼ(アミラーゼ)を多く含んでいるので、加熱に弱く、生食が適することによる。ただし、すりおろしたナガイモは焼き上がりをよくするためにお好み焼きなどの生地に混ぜられることもあり、粉末状にした専用の長芋粉も販売されている。

○薯蕷(じょうよ)饅頭
さて、このような背景を持つ「軽羹」。ただし、ヤム芋系の芋と、穀類の粉と上白糖の組み合わせから出来る蒸し菓子として忘れてはならないのが、薯蕷(じょうよ)饅頭である。なお薯蕷(じょうよ)は「上用(じょうよ)」という当て字を使って読むことがあり、最近では、こちらの方が一般的。例えば虎屋は薯蕷饅頭についてウェブ上で以下のように紹介している。10)
「薯蕷饅頭は皮につくね芋を使ったお饅頭です。その歴史は古く、江戸時代に京都で生まれたといわれています。つくね芋特有のきめの細かさ、しっとりとした上品な味わいが特徴です。」

上用万頭を食べるとその老舗のレベルがわかるといわれるほど、シンプルなのに、基本を問われるお菓子である。薯蕷(じょうよ)万頭は、茶席においても主菓子として使われる。茶で珍重される理由は茶との相性が特によいからである。茶の香気を損ねない饅頭を作るためためには、匂いの強い動物性のつなぎを使いにくく、植物性のつなぎとしてこのヤム芋系のつなぎが発達したのではないか。8)

もっとも蒸し菓子に適したヤム芋は調べた範囲では日本土着の自然薯だと考えられる。1)ただし、野生種で栽培が難しい、栽培条件(おそらく気温、詳細未調査)が限られるため、同様の蒸し菓子を作るためにはもっともつなぎ効果の高い長芋系であるつくね芋を使った菓子も多いのだろうと考えられる。自然薯は最適産地(気温、火山灰地)である鹿児島では軽羹のつなぎとして用いられ、関西ではつくね芋(長芋)が薯蕷饅頭でつなぎとして用いられているのだろうと考えられる。それでも、どちらも文献に登場するのは江戸時代からであり、格式の高い菓子として位置づけられ、高度な製菓技術を要求される献上菓子の地位にあることは面白い。日本としてひとつの菓子文化として共通する考え方の筋が通っており、それぞれの土地でその菓子に対しする考え方を具現化したものが、それぞれ軽羹と薯蕷饅頭なのだろうと思った。

なおヤム芋は熱帯~温帯に生育し、特に熱帯では主食として用いられる。日本では、さつまいもやじゃがいもが無かった時代には、いもといえば、山芋をさしたようで、現在、日本で採れる山芋は、大きく分けると、長いも、大薯(だいしょ)、自然薯(じねんじょ)の3種類で、農林水産省の統計種類でも、この3種類を山芋と呼んでいる。7, 9)

日本の菓子文化も面白いものだなぁと思う。

1.軽羹 - Wikipedia
2.軽羹百話-軽羹とは
3.CiNii 論文 -  かるかんの起源について
4.ヤマノイモ - Wikipedia
5.ヤマノイモ Dioscorea japonica 薯蕷 野山藥(2900)* - ギンジョーの薬草ハーブ日和
6.ナガイモ - Wikipedia
7.おいしいねっと~山芋(やまいも)
8.(関連投稿)aromaphilia: 茶の香気を尊重する菓子、嗜好品の時間における香りの調和
9.(関連投稿)aromaphilia: 世界の食文化地図
10.とらやの和菓子 特別注文商品 -薯蕷饅頭-|株式会社 虎屋

コメントを残す