藤森先生の本1より「香りのいろいろな側面」

自分が以前より「香りと学問」の関係を漠然と考えていたが、ちょっと良い図があったのでご紹介する。早稲田での藤森先生の社会人講義2に参加した、と以前報告したが、その講義中に「香りのいろいろな側面」(「香り」と「嗅覚」をめぐる関係図)を、見せてもらった。 
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香りをめぐってはさまざまな側面があって、嗅覚、情報、言葉、測定、食品香料、香粧品香料が挙げられる。
嗅覚の研究は他の五感に比べて受容体の解明は遅かった3。1990年代である。その後休眠している遺伝子も含めて約1000種類の匂い分子受容タンパクの遺伝子が存在していることが分かっている。ヒトでは約300種の匂い分子受容タンパクの遺伝子が発現すると、報告されている。この研究カテゴリは細胞生物学である。ただし受容タンパク、嗅覚細胞から発信された信号の解析はまだ未解明である。どのように脳内が活動しているのか等興味結構ある。
情報としては、フェロモンや感情的な好悪が挙げれていて、フェロモンについては生物学(行動学などだと思う)で調べられている。人間は鋤鼻器が退化しており、フェロモン物質は見出されていない。匂いに対する好悪は心理学や脳科学で研究されている。「匂いに対する人間の挙動」の研究は割と新しい研究分野だ。
測定に関しては様々な分析方法が適応されたが、分析化学的手法、特にガスクロマトグラフィを用いるのが定法である。微量物質に対する検出限界の改善や、再現性の向上、匂い物質の帰属同定など日々研究がなされている。
食品香料や香粧品香料に関する安全性は、医学、薬学、化学の分野である。
香粧品香料において、アロマテラピーは新しい研究分野である。研究手法としては医学寄りであると思う。
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香りをめぐっては様々な分野で研究がなされているが、どれもバラバラであるように思う。そもそも匂いは化学物質の混合物であるし、何が匂いのイメージを決めているのか、一般人には想像し難いし、それについて調べることも難しかった。
特に致命的なのは「言葉」で共通認識を持ちにくいこと。匂いは、嗅いだことのある香りでも言語化されにくく、嗅いだことのない香りの言語での説明はイメージが湧きにくい。従来は調香トレーニングの一環として、匂いを覚えると同時に、匂いのボキャブラリーを増やすということが、意識して行われる。この分野については学問として行われていないし、共通フォーマットはないと言える。云うまでもないが、食品香料においても香粧品香料においても、「調香」に対して学問的・体系的アプローチはなされていない。
「香り」の世界を深く知ろうとすると、この「言葉」と「調香」が壁となり、学問的・体系的な理解を阻害する壁になってしまっていた。藤森先生の授業でふと拝見したこの「香りのいろいろな側面」で、「だから香りって調べても調べても分からないのか」と妙に納得した。(この納得感…伝わりますかね?) ちなみに以前参加した「香りのマーケティング…」4でも関係者が、「 香りの言語化」「ベース化、要素臭化できないか?」「 香りの辞典のようなものを作り、要素の数値化をしたい」と言っていたのと結構カブるなぁ、と感じた。

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