知覚と感覚の研究 …ゲシュタルト理論や「美的」感性をちょっと調べる

心理学、特に視覚や聴覚、触覚の研究事例と実際に香りにまつわる現象の色々をあわせて考えて、対比しながら検討し、共通項を見出せないだろうか。

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そもそもこんな本を読んだときに、参考になるのではないかと思った。心理学の教科書のような本であるが…

「知覚と感性の心理学 (心理学入門コース 1)」出版社: 岩波書店 (2007/10/26) ISBN-10: 4000281119 ISBN-13: 978-4000281119 発売日: 2007/10/261

「内容(「BOOK」データベースより);私たちはどのように物事を知覚し、それをどのように感じているのか?心理学を学ぶ基礎である知覚と心理の関係を、脳科学や情報科学のアプローチも取り入れて解説。知覚との関わりが重視される感性の役割についても、浮世絵などの芸術作品を例にしてわかりやすく解説する。豊富な図版や身近な例で、心理学のみならず理学系や芸術系分野を学ぶ人にも役に立つ、入門教科書の決定版。
内容(「MARC」データベースより);私たちはどのように物事を知覚し、それをどのように感じているのか? 心理学の基礎である知覚と心理の関係を、脳科学や情報科学のアプローチも取り入れて解説。理学系や芸術系分野の人にも役立つ入門教科書の決定版。」1

知覚研究、感性研究の特徴を知り、香りの知覚、香りにおける感性の理解へと繋げてゆければ良いなぁ、と考えた。以下に数項目の気になった記事とそれに対する考察を書いてみた。

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ゲシュタルト理論2
「ゲシュタルト心理学の最も基本的な考え方は、知覚は単に対象となる物事に由来する個別的な感覚刺激によって形成されるのではなく、それら個別的な刺激には還元出来ない全体的な枠組みによって大きく規定される、というものである。ここで、全体的な枠組みにあたるものはゲシュタルト(形態)と呼ばれる。
例えば絵を見てそれが線や点の集合ではなく「りんご」であるように見える事や、映画を見て複数のコマが映写されているのではなく動きがあるように見える事は、このようなゲシュタルトの働きの重要性を考えさせられる例である。」2また、
「例えば音楽は、個々の音を聞いた時よりも大きな効果を与える。図形もまた、中途半端な線や点であっても、丸や三角などそれを見た人間がパターンを補って理解する(逆に錯覚・誤解を引き起こす原因とも言える)。
ゲシュタルト心理学は被験者の人間が感じることを整理分類して、人間の感覚構造を研究した。そのため、図形による印象などの研究が中心であった。」2

対象の見え方や特徴を数式や言語で厳密に定義することなく例を挙げて「説明する」ことの有用性をこの概念は示している。脳で行われていることを数式で明示する事だけが、刺激に対する脳の反応部位を特定する事だけが、科学的な説明であるとはいえない。と紹介されている。

もしかすると、香りの知覚もそうであるかもしれない。ある香気成分の組み合わせは、人の心に「~~の匂い」というイメージを想起させる。いくつかの要素が欠けていたとしても、「~~の匂い」というイメージを想起させる場合もある。Aという香りとBという香りを混ぜると、どちらの香りのイメージとも違うCという香りになってしまう、という現象もおきる(このような考え方は「アコード」の考え方でもある)。

例えば、バラのエッセンシャルオイルの香りをかがせて、生理現象を測定して、香りの効果を評価したり、バラの香りの主成分であるβ-フェニルエチルアルコールの匂いをかがせて脳波を測定したり…といった科学的研究がある。数値測定や厳密な効果測定のための系の単純化は、とても科学的なアプローチなのだが、そればかりに囚われる事なく、感じることを整理分類することや印象などの研究によって、感覚構造の研究が行われても良いのではないかと思った。

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そのほかにいくつも、気になる心理学の知見が紹介されている。少々羅列的になるが書いてみる。

輝度分布に基づく輪郭の抽出というものが無意識のうちになされている、また「図」になり易い特徴というものもある。また破損した画像や不完全な描画から何が写っているかが「ひらめく」という現象があるが、ひらめいた後は何度見てもすぐに答えが分かるし、思い出すまでに掛かる時間は、正規分布的になる。このとき思考の中では「補完」というものがなされる。輝度は低閾値のストロング香気成分の役割と重なるかもしれないし、不完全な調香レシピであっても、そのターゲットイメージに重なるのかもしれない。

よく、選択的意識とスキーマという問題を簡便に説明する際に「カクテルパーティ効果」3というものが引き合いに出される。とても騒がしい場所で話していても「集中して聞いている」人の話が浮かび上がって聞こえ、意味が通じるというあれである。匂いでも色々な匂いが断続的に漂ってくる(例えば)電車の中で特定の香水のイメージがふっと感じられたりするのは、それに似ているのではあるまいか?

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20世紀は知の世紀であった。ただ、科学の対象は論理的に説明する範囲にあった。それに対して、著者は21世紀は
· 知を探求する認知科学
· 感性を探求する感性科学
の両者が重要で、それらを併せてトータルな人間理解進めるべきだとしている。まずは「芸術と視覚」のような、従来の枠を出た曖昧な領域を科学の俎上に乗せようとしている。自分としては香りや嗅覚を科学の俎上に乗せたい。

参考;
1.Amazon.co.jp: 知覚と感性の心理学 (心理学入門コース 1): 三浦 佳世: 本
2.ゲシュタルト心理学 - Wikipedia
3.カクテルパーティー効果 - Wikipedia

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