「オープン・スペース 2011」,「[インターネット アート これから]」展 を聞く

キュレーターの座談会形式のメディアアート関連の話を聞いたところ、意外にもこの前のopen CUのイベントで聞いたような話を聞くことになった。いかにパブリックなデータをパブリックにアクセス自在にしてゆけるか?という話や、インターネット上でのアートコンテンツが今後どのような経済モデルにアジャストされて行くのか?という話を聞いた。

NTT/ICC「オープン・スペース 2011」2、「インターネット アート これから」2、open CU「PUBLIC TALK #2[パブリック×ビッグデータ] 小林啓倫×市川裕康」aで自分が感じたことは3点ある。
· インターネット上の知財は誰のものなのか、公開と公平性をいかに獲得するか
· 新しい「クリエーター」のスタイルがインターネットを包含した世界で構築化されつつある現実
· ビックデータ解析vsキュレーションという2項の対立・協働によってアート活動に限らず進展地が開けてゆくのではないかという視点
である。

1,2点目に関して。

従来、インターネットでお金を取る、コンテンツに対してキチンと対価を支払ってもらうことは、技術的に難しかったし、共通認識として「お金を払ってもらえない世界」「ボランティアでやる世界」「アマチュアとして、もしくは趣味としてやる世界」という認識をもたれていたと思う。

しかしインターネットの世界に巨大なデータが構築されつつあること、それを解析することも可能になっていること、そしてそれを介して自分の創作物(アート・技術・ソフトウェア)を世に問うことが現実感を持ち始めていることからこの世界が整備され始めている。課題は、インターネット上の知財は誰のものなのか、公開と公平性をいかに獲得するか、及び、新しい「クリエーター」のスタイルを構築化することだ。

例えばEuropeana4はグーグルが著作権問題の解決を待たないまま(従来の著作権がその形のまま存続すべきとも思わないが)書籍の電子化に着手していたのに対して、EUが独自に文化資産の電子化と公開の準備を進めた。Data.gov5では公的データをオープンにして、アプリ製作支援を後押ししている。これは小さな政府の実現化に貢献するし、業務のアウトソースでもある(サンフランシスコ市のsfdata6も同様)。コンテンツに対する課金と製作(アーティスト/ソフトウェア開発)活動に対する援助(一種のpatronize)の例としては、Kickstarter7、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)8、Grow! – Social Tipping Platform –9などが紹介された。有力なもの幾つかに収束してゆくと思われる。

3点目に関して。

データマイニングなどとして古くからなされてきたビックデータの解析は今大きな注目を集めるに至っている。だがそれは “キュレーションc”という手法とは抜本的に異なるものである。

ビックデータのデータマイニングは多くのデータの中から有用な情報を抽出しようというものである。例えばツィート、ブログ、各種トラフィックデータ、POSデータなどから統計処理などをして社会現象として抽出されてきた挙動である。このプロセスのイメージはバルク的な世界、均質で平坦で局在化していない世界からの情報の抽出をイメージである。

それに対してキュレーションは、「バルクでジャンクなアウトプットの中から有意なもの、次世代のシードとなってゆくものを識者が抽出してくる」イメージだ。「ビオトープ」という言葉も使われているが、コンテンツの世界などにおいては、ますます多様性を持ち始めている。何が有意で何が次世代シードで、何がバルクなのか?とても分かりにくい世界がある。だが有意性は歴然としてあるはずだし、アウトプットは様々な文脈で(様々なパラメータで)「階層化しているもの」として解釈されるべきである。階層というと語弊があるかもしれないが例えば以下のような意味合いだ
· 時代の流れ;インサイト、流行、バズ、“エッジ”
· 社会的・経済的;高級~低級
· 理想的~現実的~依存・ネグレクト的
何をバルク/ジャンクから取り出すのか?方向性、価値付け、意味付けが必要である。ハイエンド~ローエンド的な区切りになるだろうやり方で、そのコンテンツのみでなく、時代の進むべき方向性をも潜在的に考えることがキュレーション、とすら言えると思う。

用語としては時期的にはほとんど差なく登場し、今どちらとも注目されているワードだと思うのだが、どちらも異なる志向性を持っている。これらをどう統合してゆくのか、統合し得ないものであればどのように役割分担する必要があるのか考えてゆく必要がある。

参考;
1.TAB イベント - 「インターネット アート これから―ポスト・インターネットのリアリティ」展
2.ICC ONLINE | ARCHIVE | 2010 | オープン・サロン「オープン・スペース 2010」プレ・イヴェント 「リアルタイム・ウェブの現在とこれから」
3.「[インターネット アート これから]」展 (TOPICCS)
4.Europeana - Homepage
5.Data.gov
6.Data | San Francisco
7.Kickstarter
8.CAMPFIRE(キャンプファイヤー)- クラウドファンディング
9.Grow! – Social Tipping Platform –
10.Amazon.co.jp: キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書): 佐々木 俊尚: 本

関連投稿;
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b.aromaphilia: 坂根厳夫「メディア・アート創世記ー科学と芸術の出会い」工作舎 (2010/10/18)
c.aromaphilia: ヘンリー・ダーガー展 覗き見をしても良いのか

*2012/4/13、2つの記事を統合しました。

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