Alan Flusser「Clothes and the Man」

■2005年10月02日(日)21:05  の日記より

 紳士服の「今日風」はイタリアンクラシコである。去年くらいからブリティッシュトラディショナルという形も入って来てはいるが。…そんな時流を微塵も考慮せず、こんな本を読んでみた。アラン・フラッサーはアメリカ人紳士服デザイナー。雑誌「Gentry」05年5月号にこのデザイナーが紹介してあった。その誌中のダブルのスーツが印象に残っていたので調べてみたのだ。

 この本は1980年代に出された彼の2冊目の服飾論である。日本向けには水野ひな子が訳をしたものが、婦人画報社から「アラン・フラッサーの正統服飾論」という邦題で昭和63年に出版されている。既に絶版であるが福岡市図書館にあったので借りて読んでみた。

 アランフラッサーは雑誌中でも、この本の中でも1930年代のファッションを重視している。ロンドンのサヴィルロウそして第一次大戦後の好景気なアメリカが、現在まで続く紳士服のエレガンスの基礎を形成したとしている。スーツのディティールは3種類、寸胴なアメリカ型、絞りの利いたヨーロッパ型、その中庸のヨーロピアンアメリカ型に分類してある。現在流行のイタリアンクラシコもブリティッシュトラディショナルもヨーロッパ型である。団塊の世代に人気のヴァンジャケットやアイビースタイルは寸胴なアメリカ型である。

 またアランフラッサーはこの本の中で、首の長さや恰幅の差、顔の形、体の筋肉のつき方によって差はあるが、「最もエレガントなスタイル」は流行に左右されるものではないという。ラペルの広さ、ズボンの太さ、等には流行を除外した所に「自然さ」があり、皺の出方、袖の長さ、シャツの着方には流行によらない「絶対的基準」がある。どのシルエットが好きか、ダブルが好きか、シングルが好きか…シャツは何が一番に合うかさえ解っていれば、ワードロープはとてもシンプルになる、という。

 現在アメリカントラディショナルは下火なので、この本を読む人は少ないかもしれない。でも「ちゃんとしたスーツ」を考えるには、ケバ過ぎることなく貧相でもないエレガントで礼儀正しく見せてくれるスタイルを手に入れるためには、この本を読むのも良いかもしれない。筆者的には「今これが流行です」としか言わない販売店の店員にこそ、読ませてやりたい。

http://www.amazon.co.jp/Clothes-Man-Principles-Fine-Dress/dp/0394546237/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=english-books&qid=1281321936&sr=8-1
より(原著についてはデータがあった)
出版社: Villard (1985/10/12)
言語 英語, 英語, 英語
ISBN-10: 0394546237
ISBN-13: 978-0394546230
発売日: 1985/10/12

はじめての場所に降り立ったならば、音と香りを感じてみよう

■2008年10月26日(日)  の日記より

 完全に調律された生活を送りたい。完全に調和した精神状態でありたい。そのためには良い香りに包まれていなくてはいけないと思うし、良い音を配していたいと感じる。「非言語コミュニケーション」という言葉があるが、この音(喋り声ではない)・香りはそんな非言語コミュニケーションの最たるものだと思う。そしてこの音・香りは土地に滲み出している。

 たとえば高速道路や鉄道の効果の下は人に聞き取れないくらいの低周波の音が出続けている。長時間、高架の下にいると精神的におかしくなるという。また寝室にて安眠できる騒音レベルは20~30dB以下だそうで、これは通常のパソコンの起動時のファンの音や冷蔵庫のコンプレッサーの音のレベルだそうだ。そんなの気になったことなんて無いよ、と言う人も多くあるだろうが、これらのある部屋で寝なくてはいけないなら、その生活環境はベストとはいえない。たとえば禅寺体験旅行のような静かな環境の下でしばし暮らす体験をした後、もとの騒音環境に戻ったら、こんなにも苛酷な生活環境で暮らしていたのだ、と唖然とするかもしれない。逆にいい音というのは、倍音成分がきちんと入っていたり、和音構成(和音というのは周波数のずれによって生成してくる唸り)が良い、不協和音がきちんと除去されているものと言えると思う(これはオーディオ、PA、作曲、自宅録音などをしていくうえで重要になる)。携帯電話の着信音が単純な音から和音構成になったときの印象はすごかった。携帯電話をFomaにしたときに「黒電話」と言う名前の着信音があって、好んで使っていた。黒電話の鈴の音を周波数解析して、倍音成分や和音、その経時変化を再現したのだろう。

 香り。香りにもいろいろある。花・フルーツの匂い、茶・コーヒーの匂い、香水の匂い、お酒の匂い…、トイレの臭い、食べ物の痛んだ臭い、体臭、排気ガスの臭い…。香りには良い匂いと悪い臭いがあるようだ。ただ、良い香りだけでよいのかと言うとそうではない。香水には花の香りやフルーツのような良い匂いだけではなく、物の腐ったような臭いや体臭・排泄物の臭いや温泉の硫黄のような臭いが少しだけ入っていて、それが香水に深みを与えるのだ。また、食べ物でも、青みの魚も鮮度が少しでも落ちると臭う。伝統的な料理技術に従えば、焼き魚にしておろし醤油に柑橘類の香りを加えたり、たたきにして刺身にするなら茗荷や生姜やにんにくなどを加えポン酢で食べたりする。いい匂いと悪い臭いという括りはあまり意味を成さず、それらを絶妙にブレンドした香りが生活のふくよかさや深みを与えると表現すべきだろう。そしてその「ブレンド」は個人個人の生活史から成立してくるものだし、その個人個人の「ブレンド」が積み重なって家族や地方や国の香りの文化へと繋がっていく。香りは消してしまえばよいと言うものではなく、良い匂いで塗りつぶすべきものでもない。

 それでも悪い香りはある。昔住んでいた場所のひとつに果実の集積場があって、いつも腐った果物の臭いがしていた。清涼飲料水の集配場にも、そんな臭いがすることがある。使用済みの空き缶が集積されるからだろう。昭和くらいまでの日本建築でトイレ・台所・風呂の間取りが画一的だった(多くの場合、水回りは不浄として北側にまとめられた)のも、中国での風水という思想も、臭いと衛生の問題を解決するためという。現代の住宅では換気扇を用いることで方角と風通しの問題を解決している。臭いがどうなのかと言うよりは、衛生的なのかどうかが重要なのである。また排気ガスの浄化装置がよくなったとは言え、国道のそばはやはり排気ガスくさい。利便性を追求するのは仕方ないが人工的な臭いもなるべく避けたい。天然の建材がもてはやされ、無垢無塗装のフローリングに憧れるのは、人工的な臭いではなく天然の香りを人が求めているからかもしれない。

 はじめての場所に降り立ったならば、音と香りを感じてみたい。自分の求めるものがそこにあるのか分かるかもしれない。

「香りの科学と美学」(藤森嶺)

■2010年01月19日(火) の日記より

「香りの科学と美学」(藤森嶺)は東京農業大学を定年退職した著者の早稲田大学での社会人講座をベースに、またはその教科書として書かれた香り文化につい ての人文書。一応は化学系だが自然科学でも工学でもない。もともと香料・香りというものを研究する学問分野は無く、それについて語ろうとすれば化学、心理 学・文化人類学、あるいは服飾論(特にフレグランスは美術とも繋がりうる)、食品衛生学(広域に目をやれば農学)、生物学・医学と広範な学問分野に精通し ていることが求められる。この本はそんな香料・香りを「講座」として成立させるために、また同時に子供に諭すように噛み砕くことをなるべくせずに、各界の 現場の人間を執筆者・口演者となるような感じに、各章ごとに自由自在に・深く講座が進む。なかなかに読み応えがあった。

http://www.amazon.co.jp/%E9%A6%99%E3%82%8A%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%A8%E7%BE%8E%E5%AD%A6-%E8%97%A4%E6%A3%AE-%E5%B6%BA/dp/4886942105
より
出版社: 東京農業大学出版会 (2009/05)
ISBN-10: 4886942105
ISBN-13: 978-4886942104

文章の電子化をしてゆこう 続き

面白い。電子書籍に関して、業界内で電子書籍への対応は遅れているのに対して、PCに関してそれなりの知識を持つユーザーは自分で電子化をして、そのユーティリティを存分に利用している。もちろんその利用は法的にはグレーゾーンとなるわけだが、NHKが「自炊派」について取り上げるなど、かなり浸透していることも確かなのである。

しかしながら、書籍の電子化の真の価値はデータそのものの電子化なのである。検索を掛けたり、文書作成時にコピー&ペーストをしたりその価値は、計り知れない。

今、強力に自分の手持ちの書類の電子化を進めようと考えている。そのプランは

1. 本の裁断

2. ADF付のスキャナーで連続読み込み(高画質読み込み、600dpiは欲しい)

3. 透明テキストデータ付PDF化、画像データのダウンクオリティ化(HD中での容量を抑えるため)

4. ネットワークHDへのストレージ化

5. ISBNコードやDOI(学術文献番号)による管理 (これに関してはマネージメントするソフトを捜索中)

6. ビューワーによる閲覧

7. PDF管理ソフトによる管理、想定しているソフトはadobe acrobat、mendeleyである

参考ページ

http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52029061.html

http://help.adobe.com/ja_JP/Acrobat/9.0/Standard/acrobat_standard_9.0_help.pdf

http://fuji.u-shizuoka-ken.ac.jp/~ishikawa/newread.htm

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4887598084

文章の電子化について考える、OCRとか

学校の本をはじめ、重要な文献がたくさんある。にもかかわらずその所在はノートの走り書きであったり、本のコピーであったり、古い文献の写しだったり、あるいはインターネットからDLしてきたPDFだったりする。

色々なデータや知見を集めるのは良い。だが必要なときに素早くその見たことのある文献を引き出し、短時間で必要な箇所を書き写すのにはどうしたらよいだろう?自分は文献の保管形態としては、紙体ではなく電子化して自分のHDに入っている状態が最も望ましい、と考えている。

古い文献になれば画像としてのデータでしかないこともあるし、本の中から必要な部分を探すためにはどうしたらよいだろう?これを解決するのがOCRであると考えている。ただの画像データとテキスト情報のデータではそのライブラリーの価値は大きく違って来る。素早く必要な文献を引き出すのにはコンピュータの検索を使い、短時間で必要な箇所を書き写すのにはテキスト化された文献の該当箇所をコピー&ペーストするためにはテキスト化されていることが必要なのだ。OCRは民生向けソフトではまだまだ変換識字率が問題となることがあるが、学術的な書類管理ソフトの利用者には、OCR処理がなされていれば、その整合処理が完了していなくても、文献中において重要である用語は何度も出てくるのだから、そのデジタルライブラリーの利用価値は十分高まるという意見もある。

ライブラリーの電子化後に重要性を増すのが文章一括管理ソフトまたは文献管理ソフト(紙体のものと共存しない場合、やや学術寄りな場合にはこちらのほうが良さそうである)だと考えている。現時点においては文献の管理ソフトはたとえばMendeleyとかEnd Noteを想定している。これらは学術、特に医薬系、医師系の学術文献整理・検索用ソフトである。この手の学術向けの書類整理ソフトは本が出るほど充実しており、ソフトが有償か無償かによってさまざまだが、Mendeley(無償)やEnd Note(有償)は主要な代表例といえるだろう。本来、自分のやりたいこと自体が研究に近いものなので、学術向けの整理ソフトのほうが自分のパッケージにはむいているのではないだろうか?

加えて、リファレンスばかりではなく、自分の記述したものに対しても、検索がかけられ、リンクが付けられるようなものがないだろうかと探している。自分の書いたものも含めてPDF形式に統一、一元化管理というのが良いのではなかろうか?

とにかく紙体で保存してある文献を電子化してしまおうと思っている。それもこの夏中くらいに。とりあえずエプソンのES-8000をオークション経由で入手した。ADFは付いていないがしばらくはこれでやってみよう。

私について、このブログで書こうとしているコトについて

yhuaと申します。アカウントは数字を混ぜないと取れなかった関係上yhua0917となっていますが、yhuaとさせてください。僕は香り、匂いを追いかけて、この2010年の春から調香の勉強を始めました。このブログを開設した事由は、自分の考えたことを外に向けて発信することが、今の自分にとって必要だったからです。

今までは僕は「化学」の世界に居ました。「化学」は「科学」です。学ぶのに時間は掛かりますし、なかなか理解できない概念が現れたり、実験をしても「証明」までに到達できない理論があったりしますが、その根底は理路整然とした「科学」です。しかし調香は「感覚」です。自分の作った香りが人に好かれたり好かれなかったり、面白がらせたり気持ち悪がらせたり…。調香が芸術に属するものだといわれる由縁です。

そこまでは概論的に分かりました。でもその仕組みについて少しでも理論があって欲しい、どうなっているのか知りたい。そう思ってしまうのが僕の性質のようです。だから調べるし、調べたものはどんどんリンクしてゆきたい。やがてその知識の断片、着想、感じたこと等などは繋がり始め、クラスターとして自分の眼前に広がってくれるのではないかと考えています。

そう、知識の断片、着想、感じたことがまずは重要、それらを集めること掬い上げることをはじめないと何も得られない。しかしバルクの知識はすぐには役に立ちません。まず一つ一つの断片を発信するという「練り上げ」の過程を経てきちんとした塊にします。そしてそれぞれを再結合したりしながら、追い求めている香りの世界に到達してゆきたいと考えています。

いずれにしてもブログを設置する場所は見つけたので、はじめようと思います。このブログスペースはアニメーション作家のamicaさんや、香料や香りのインスタレーションやワークショップを積極的に展開している「魔女の実験室」のmakiさんのブログが置いてあります。尤も無料で展開できるというところが一番の決め手だったのですけれども。