シトラールの安定性、香料原料の安定性について考えてみる


香気成分はしばしば化学的に不安定なことがある。あまりにも不安定な成分では香料原料として安定利用が出来ない場合もあるが、香料原料として商品化されているものの調合後安定性を高めるために工夫が必要という場合が多い。個々の事例については香料会社のノウハウとなるが化学系の知識に基づくものであり、調べられる範囲で自分もいろいろ調べてみている。アルデヒド、特にシトラール1)に関して調べた範囲でご紹介する。

そもそも香料原料として品質劣化が問題となる場合とはどういう場合か?それは本来の香りが弱くなることもあるが、品質劣化によって異質な匂いの元となる原因物質が発生・増加して、調香された香りの調和を乱してしまう場合である。発生する物質が過剰な場合や、発生する物質が低濃度であっても沸点が低かったり、閾値が低く低濃度でもオフフレーバーとして感じられる場合は特に問題となる。

不飽和結合があれば不飽和結合のcis-trans異性化、不飽和結合に対する付加反応が起こりやすい。アルデヒドに関していえば、酸化されてカルボン酸に変換されたり、高濃度のアルデヒドは不均化反応してアルコールとカルボン酸の混合物となったりするし、重合性もある。アルデヒド結合は不安定な結合であり、光・熱・酸素によって劣化反応が起きやすいのだ。

「香料」の記事2)によると、今回取り上げるシトラールに関していえば、アルデヒドの隣の炭素が不飽和結合であるβ不飽和アルデヒドであり反応性が高い上、分子内に別の不飽和結合を持つために分子内付加反応(分子内付加反応は低濃度でも反応速度が速いので問題になる)が起こり、低沸点の異性化物が発生する。さらにこの異性化物が前駆体となり低閾値の悪臭物質を生み出すことが分かっている。調合原料の単一組成のシトラールですら劣化反応が危惧されるので調合品では問題はより複雑化する(何が起こっているのかわからない)。アルデヒドがβ不応和アルデヒドでなかったら反応性は低下するだろうし、分子内にさらに別の不飽和を持たなければ分子内環化ではなく分子間環化になって生成速度も格段に落ち、得られる反応物もそれから誘導される誘導体も高沸点になると考えられる。他の高沸点アルデヒドでシトラールほどのオフフレーバーが問題化しないのはそのような理由からである。

なお低沸点アルデヒドでは酸が問題となると考えられる。アルデヒドより誘導された酸のほうが高沸点であるのでアルデヒドから誘導された酸が問題となるのは低沸点アルデヒドの場合である。

調香された後にこの香りの化学反応によって香調が望ましい方向に動く場合もあり、この場合は「成熟」と呼び、それを見越した配合をなさなくてはならないし、温度(室温~40℃くらいが目安)をかけてその反応を促進させたりもする。

参考(編集中)
1. シトラール - Wikipedia
2. および図 高井, 香料, 233,p.97-106

トイレタリー商品について考える (消耗品か生活必需品か)

依然として化粧品市場の状況は悪い。日経新聞は今まで割りと良好な市況を伝えてはいたが、矢野経済のレポート1)では国内市場の売り上げは微減であり、業界としての動向は厳しいとの見方を伝えていた。

国内市場では市場として完全に熟成されてしまっている。以前も書いたこと2)ではあるが化粧品市場は発達過程の市場において大きく成長する市場である。今まで貧しかった社会が経済的に大きく成長するとき、保守然としていた恰好をし、化粧をしていなかった人々は服飾・化粧によって経済的に豊かになったことを顕示する。しかし経済成長が一定程度まで達成されると服飾・化粧は当然のものとなり、コストダウンの対象になる4)

これは化粧品に関して述べたことだが、トイレタリー商品(シャンプー・リンス・ボディソープ~衣類用洗剤まで)になるとよりその傾向は顕著になる。商品レベル、流通レベルともに低い市場がそれまで以上の経済的余裕を手に入れ始め、同時にそれまでは高機能な商品を投入すれば、粗悪な従来のトイレタリー商品から市場を奪取できるだろう。化粧以上にトイレタリー製品による体の清浄感、体臭の浄化感は現代人として一度体感してしまったらそれのない生活は考えられない3)。化粧品を使ってのメイクをしない女性はある割合居るだろうが、シャンプー・リンス・ボディソープ~衣類用洗剤までを使わない現代人は居ないだろう(宗教・思想上の理由から近代以前的な生活を送っている社会もあるので全ての人とはいえないが)。トイレタリー製品は生活必需品なのである。だからこそ、一定以上の性能のトイレタリー商品が安定的に流通するようになると、コスト削減対象となる。

製品技術レベルが一定以上に到達し、正しい価格競争がなされ続ける安定した流通状態になり、ほぼ全ての人々が生活資材を保有している状態では、新しい技術や新しい意匠がなくては物を売ることが出来ない。新しい意匠はファッションとして世に問われ、その中のいくつかは流行となる。化粧に関して言えば、新しい化粧方法や流行によりそれまで無かった新カテゴリーが創生されることもあるだろうし、新しい技術によって可能になるファッションもありうるだろう。化粧品に関しては、流行といううねりがある限り、新しい化粧法や新しいアイテムが誕生し、それにしたがって製品が発売される筈だから新商品がなくなることはないだろう。

しかし、トイレタリー商品は商品バラエティが限定される上にトイレタリー製品は生活必需品なのである。各カテゴリーにおいて要求される性能も明確なことから、新カテゴリーが創生されたり、新しいアイテムが誕生するのが難しい。新しい技術が投入されることもあるが、流行というファクターの影響力は小さい。

トイレタリー商品から化粧品まで、現代の市場は成熟・完成してしまっているように思う。もちろん医学的、生物学的な学術の発展により新技術もハイエンド商品から投入されはする。しかし、圧倒的な新商品の発表は起こらないだろう。新商品で市場を席巻しようとすれば、宣伝方法を含む販売戦略、イメージ戦略(もちろん技術的なバックボーンは必要だが)が重要になる。その際には調香のセンスというものも重要になるとは思うのだが…。

1.化粧品市場に関する調査結果 2010 - 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
2.aromaphilia: 2010年9月15日水曜日
aromaphilia: 流行30年周期説? 短周期化しているのではないか?
3.Amazon.co.jp: アローマ―匂いの文化史: Constance Classenら, 時田 正博: 1997 (例えばp.120-やp.263-)
4.少し古い記事ですが
基礎化粧品「1000円未満」で激戦 大手が新ブランド :日本経済新聞

Wikipedia:オフラインミーティング

Wikipediaオフラインミーティングがあるらしいです。開業当初にはこんなものもあるのかという程度に考えていたwikipediaでしたが(当初は化学系の知識に関して間違った記述も多かったりしたのであまり使っていなかった)、今となってはパソコンやインターネットの基礎知識・情報検索をする常習サイトとなってしまいました。

実を言いますと、当ブログの最終的な目標;知識を断片的にでも結び付けてゆけば、やがて知識はクラスターとなってそれをつかむことが出来るだろう、という考えはwikipediaのクラスター構造を横目に見ながら自分の中に夢想していたことなのです。

そんな訳で、当初「何じゃこりゃ」と思っていたオンライン辞典はいまや尊敬し、目標とする存在です。こそっと潜り込めたらもぐりこんで見ようかと思っています。

Wikipedia:オフラインミーティング/ウィキメディア財団職員Ryan Laneによる講演 - Wikipedia