メモ;化学刺激と生体受容体の相互作用に関してホストゲスト科学の観点から見る

嗅覚受容体は今まで見てきたように、他の化学刺激と比較して、低選択性で(おそらく)低親和性の受容体挙動を示している。

他の化学刺激というのは、フェロモンやホルモンの受容体/受容細胞の応答などを考えている。具体的に言うと、「フェロモン(pheromone)は、動物または微生物が体内で生成して体外に分泌後、同種の他の個体に一定の行動や発育の変化を促す生理活性物質」1であるのだが、フェロモン~フェロモン受容体の相互作用はとても選択性が高く、フェロモン分子の化学構造が少し異なる異性体においては、フェロモンとしての活性が著しく低下する。このような特性は生殖挙動などの生物における、重要な個体間の関係を形成する上で重要となっている。

また、「ホルモン(ドイツ語: Hormon、英語: hormone)とは、動物の体内において、ある決まった器官で合成・分泌され、体液(血液)を通して体内を循環し、別の決まった器官でその効果を発揮する生理活性物質」2のことである。(かなり乱暴な説明であるが) 作用は同じ個体内で起こる点がフェロモンと異なる。どちらも濃度は非常に微量であり、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質である。

フェロモンは生物個体間での情報伝達で使用される情報伝達物質であるので、水生生物では主に水溶性、陸上生物では揮発性が一定以上必要である。これに対して、ホルモンは個体内で活躍する情報伝達物質であるので、水溶性はある程度必要3であるが、揮発性は必要ではない。ただしどちらの場合にも必要とされる性質は、情報伝達分子~受容体における高い選択性である。その特定の構造を持つ情報伝達分子に対してのみ受容体が結合しシグナルを発さなくてはならない4

さて、上記のような情報伝達物質から化学刺激物質まで様々な化合物が生物の廻りにあふれているわけだが、それらを一覧化すると以下のようになると思う。

情報伝達物質
化学刺激物質
機能
器官(ヒトの場合)
(媒体)
(存在濃度)
化合物の特色
フェロモン
個体間情報伝達
鋤鼻器(又は鼻)
気相
極微量
ある程度の揮発性
mid~high MW
high selective
ホルモン
個体内情報伝達
生体内各器官
生体内(主に水系)
極微量
ある程度の溶解性
mid~high MW
high selective
(味覚刺激物質)
味覚(味”と
考えられている)
鼻、嗅球
水系
%~ppm
ある程度の水溶性
low~mid MW
~mid~ selective
匂い(嗅覚刺激物質)
香り
舌、味蕾
気相
ppm
揮発性
low MW
low selective
水生生物にとっての匂い
水系
(ppm ?)
水溶性
low MW
low selective

6,8

参考;
1.フェロモン – Wikipedia
2.ホルモン – Wikipedia
3.(脂溶系の循環で伝達されたり、ミセル出で運搬されたりという場合もあるだろうから一概には言えない)
4.(相互作用は起こりえても良い、ただし受容細胞の系がシグナルを発してはいけない。おそらく受容体は類似物質に対しても親和性を発揮してしまうかもしれないが、その際にコンフォメーション変化が真のターゲット分子とは別のコンフォメーション変化であり、その後に続くカスケードな情報伝達の化学作用が起こらないようになっていればよい、これは阻害剤5の考え方でもある)
5.(例)酵素阻害剤 – Wikipedia
6.老年者における四基本味の味覚閾値の変化
7.(「味覚は…摂食時であり、対象は食料であり、それが飲食可能であるかを判断 し、また摂食時の楽しみでもある。ヒトの場合のそれは舌にあり、嘗めることで味を確かめる…」8)
8.味覚 – Wikipedia
老年者における四基本味の味覚閾値の変化

a.フレグランスクリエーション
b.フレーバークリエーション
c.茶席で香水はつけられるのか
d.澁谷達明「匂いと香りの科学」朝倉書店 (2007/02)1