MATLABでGC-MS解析ソフト作れないか?

ガスクロを用いてもなかなか検出できない香気物質がある。低閾値でそもそも入っている量が少なかったり、天然物由来のピークが数多く、重複したりしてしまう場合だ。GC-MSの場合、オートマチックではないが、その既知方法の一つに特徴的フラグメントイオンの追跡という手法がある。一つの成分分離が不完全となっているピークにおいて、それぞれ特定m/zのフラグメントに注目し、それぞれの物質が幾らづつ入っているのか計算するのである。

これに対して、全領域マスフラグメントに対して時間微分をし、フラグメントの単位時間増加を計算してやれれば、カーブが重複している場合でも容易に解釈できるはずだと思うのだが…。同種分子から発生するフラグメントであれば積分曲線のパターンは共通化する筈であるからMSD曲線としては同じ挙動を示すフラグメントに関して加算することでMSD精度を向上させる。

GC-MSのデータは経時(RT)、m/z、ピーク強度の3次元のデータである。もっとこの辺のところを掘り下げて、GC-MSの時間軸での追跡をしての微小要素の抽出ができないかと考えた。これらを行列計算で処理をすることで全領域フラグメンテーションをすると同時に、同じ増加と減少の強度変化を示すフラグメントの抽出(グルーピング)、強度積算による各成分の強度比の算出が出来ると考えられる、フラグメントの抽出により、同一化合物由来と判断されたフラグメントグループはマスパターンライブラリを利用したマッチングをすることで、微小ピークであってもマッチングが可能と考えられる。

参考;
1.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21)
2.aromaphilia: ガスクロ(GC)に関する基礎知識的なメモ
3.aromaphilia: 香気のライブラリを整備したい
4.クロマトグラムデータ処理方法及び装置 特開2011-220907

澁谷達明「匂いと香りの科学」朝倉書店 (2007/02)1

澁谷達明2は結構高齢なはずの脳科学の先生である。彼は嗅覚と脳に関して大きな足跡を残してきた研究者である。大学機関を定年退職した後も、嗅覚味覚研究や香りの科学関係の出版に携わり、「香りの科学」を牽引してきた。

嗅覚に関するブレークスルー、つまり研究手法や考え方が一新された出来事は、1990年代のバックとアクセルによる嗅覚受容体3に関する遺伝子が見出されたことだと言えるだろう。これによって彼らはノーベル賞を受賞し、嗅覚の“生化学的な検出機構”に一定の結論が与えられたc。とくに2000年代に入った頃には、生化学的な現象解析には分子生物学が、認知機構などの解析には非侵襲的な脳科学的手法が用いられることが一般的となるようになった。

澁谷達明は主にこの「ブレークスルー」以前の時代、嗅覚に科学的にアプローチした研究者だと言える。時代柄、侵襲的な研究が多く、倫理面から非侵襲的な研究が重視される現代の脳科学とは幾らかの差異を感じる。確かに脳科学の手法はこの四半世紀で大きく変化し、新たに見出された事も多かったと思う。しかし彼が残してきた嗅覚~脳科学研究の業績はとても大きいものだ。彼は1989年にその時代における“香りの科学”に関する教科書的な本を出版している。「匂いの科学」(朝倉書房1989)4である。その上梓から約20年、その間「ブレークスルー」もあり、上記のように“香りの科学”周辺は大きく前進した。澁谷達明の「匂いと香りの科学」朝倉書店 (2007/02)が上梓された背景は正にその前進のためであった。

「ブレークスルー」前の「匂いの科学」もその執筆陣はかなり豪華なものであったが、その後の「においと香りの科学」でもかなり豪華な執筆陣が各セクションを持っている。以前より自分も感じていることなのだが、匂い・香りの科学は実に多分野にまたがっており、化学・生物科学(分子生物学など)・生理学(脳科学ももちろん含む)・医学・心理学・農学と幅広い分野(あるいはそれ以上かもしれない)でさまざまな研究者が研究を重ねている。澁谷先生はその進展に対してそれらを纏め、上梓することがこの研究分野において必要なのだと感じられたのだと思う。実際この本は幅広く第一線で活躍している研究者達によって執筆されているのである。

版数は余り多くなく、各章はかなり専門的だが、学際領域を鳥瞰できる、自分としてはとても勉強になる一冊だと思っている。

参考;
1.朝倉書店| 匂いと香りの科学
2.CiNii Articles 検索 -  澁谷達明
3.嗅覚受容体 - Wikipedia
4.Amazon.co.jp: 匂いの科学: 高木 貞敬, 渋谷 達明: 本

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以下に自分として気になる項目に関してメモしておく。

(p.50) 表3.1にゲノム解析の終了した生物における受容体遺伝子数を纏めてある。進化史上視覚と聴覚の進化に伴って嗅覚受容体に関する遺伝子の偽遺伝子化が急速に進んでいる。確かに匂い・味・フェロモンといった化学刺激はプリミティブな生物にとって重要な刺激である。反面、光や音という物理刺激は生物にとっては検出しにくい刺激であり、目や鼓膜のような検出機関はかなり高度な進化の末に獲得された器官である。ものすごく大雑把に言うと、プリミティブな生物ほど化学刺激による情報に依存した行動を取り、進化した生物ほど物理刺激による情報に依存していることを象徴している。脳科学的にも、においに関するレスポンスは古い脳である“爬虫類の脳”を一度通ったりするが、音や画像情報は旧皮質や新皮質がかなり反応するとの事で、生物進化において“匂い”の役割がどのように変化してきたのかを窺い知ることが出来る。a,b

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(p.52) 嗅覚受容体のリガンド結合部位では疎水性のアミノ酸が受容空間を作っている。このためリガンドとレセプターは緩く(低親和性で)しか結合できず、構造類似する広範囲の匂い分子を分子認識する(図3.2)。(p.57)匂い情報は受容体で分子認識され嗅球で“2次元変換”されて、脳内では画像認識などのような認識をされていると考えられている。電子掲示板に映し出される画像のように、複数の糸球の発光パターンとして表示されているのではないか、と考えられている。このような低親和性の分子認識+センサーアレイ+パターンマッチングが匂いの生体での認識だと考えられる。

このような認識機構のおかげで、匂い分子が構造決定基から言うと数万種類あって、潜在的な可能性としては多種多様な匂いの識別が必要であるにもかかわらず、1000種類前後の嗅覚受容体(偽遺伝子含む)だけで識別に差し障りがない、と考えられている。f

(この項目は書いていないことだが)外池先生もセミナーa,b中に言っていたが、おそらく匂い分子の刺激だけで匂いが認識されているわけではなく他の刺激も複合化されて認識されていると考えられる。例えば味覚刺激とレトロネイザル香気(喉の奥から鼻に抜けてくる咀嚼中の香気)dは、脳内で刺激が統合されて、“味”として認識されているのではないか?というような現象がある。

また別途気になることも出てくる。なぜ他愛ない特定の化合物が低閾値で、高い香気の特徴付けの役割を果たしているのか?“特定の化合物”としては、カロテノイド化合物(イオノン系、ダマセノン類)、バニリン骨格、マルトールのようなスイートノートのような“他愛ない”化合物が挙げられる。また例えば含硫化合物eやピラジン類のような特殊な形状のものは低閾値のものが多い。それらが低閾値でなくてはならない生物進化学的な理由付け、それらを低閾値たらしめる受容機構の化学的(ホスト~ゲスト化学的)なメカニズム解明はとても興味が持たれるところだ。

メモ;
澁谷達明「匂いと香りの科学」朝倉書店 (2007/02);A5/264ページ/2007年02月20日、ISBN978-4-254-10207-9 C3040 (ISBN-10: 4254102070)
澁谷 達明;1931年東京都に生まれる。1958年東京教育大学(現筑波大学)大学院理学研究科修了。筑波大学名誉教授。嗅覚味覚研究所所長。理学博士
市川 眞澄;1950年長野県に生まれる。1979年東京大学大学院理学系研究科修了。現在、(財)東京都医学研究機構・東京都神経科学総合研究所副参事研究員。理学博士1

関連投稿;
a.aromaphilia: メモ;色々な香り研究の先駆者 (外池光雄)
b.aromaphilia: 11/12/12外池光雄「最近の脳研究から匂いの脳活動はどこまで解明されたか」
c.aromaphilia: 改めて「匂いの心理学」から学ぶ
d.aromaphilia: 香気と呈味の相関、感覚の学習性の共感覚
e.aromaphilia: 硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」
f.aromaphilia: 匂いに関して、分子受容体とセンシングとディスプレイ(提示機)に関して、少し考えてみた

11/12/12外池光雄「最近の脳研究から匂いの脳活動はどこまで解明されたか」

香りの図書館「香りトワ・エ・モア」セミナーでこのテーマの一般セミナーが開催された。元来興味を持っていたので聞いてみた。メモをアップしようと以前より考えていたので転記しておく。

脳科学はかつて動物生理学的、神経生理学、電気生理学といった侵襲的な研究手法がとられていたが、近年になって脳電位・脳波、近赤外光を用いた光レコーディング、脳磁場といった非侵襲的な研究方法がメジャーになってきた。脳が働いているとき、どの部分が活動しているのか明らかになってきて、脳モデルのシュミレーションもなされるようになってきた。

嗅覚に関する研究は遅れてはいたが、だいぶ脳のどの部分が活動しているのか、どのような情報信号のルートを経るのかが明らかになってきた。ポイントとなるのは嗅覚は古い脳と強く関係していること。脳の進化は爬虫類の脳→旧哺乳類の脳→新哺乳類の脳に大まかに分けられ、受け持っている機能が異なっている。多くの感覚はほとんどが旧哺乳類の脳である帯状回にあるが、嗅覚に関して嗅覚細胞で知覚された信号は爬虫類の脳に作用するのである。嗅覚が他の五感と異なる点として以下の特徴が挙げられる
• 匂いの記憶は五感の中で非常に長く残る(プルースト効果)、幼い頃の匂いの記憶は残っている
• 匂いに対する脳反応は早い
• その匂いを嗅ぐまでに嗅いだことのある匂い(記憶にある場合なら)海馬が反応する

今後、重要になっていくであろう研究テーマとしては「脳内の五感情報統合機構の研究」が挙げられた。匂いと画像の同時刺激に対する反応が調べられたり、学生とトレーニングを受けた調香師での脳波の比較をすると「知っている匂い」を知覚したときの海馬の反応が異なっており「経験があれば同じ匂いでも脳の反応は異なるのだ」ということが報告された。匂いの知覚は、まず嗅覚細胞から嗅球・糸球体まで神経軸策が伸びており、そこで知覚される。嗅覚細胞の受容体は遺伝子上は1000種類ほどは存在することが可能と考えられている。ただし、これは休眠遺伝子も含まれているため、発現するのは300種類くらいであろうと考えられている。実際の匂いの知覚はこれらから発せられる嗅覚信号を再統合して知覚していると考えられるのである。

また、嗅覚信号は他の五感と再統合して知覚される事で、別の印象になっていると考えられる。例えば、食事しているとき口腔内から立ち上る食品の匂いを、喉の奥から鼻まで繋がったルートから嗅いでいる。これはレトロネイザル嗅覚と呼ばれるが、鼻から直接嗅ぐ匂いとは別物として知覚されているようである。加えて五味の味覚や歯触りや温かさといった触覚と複合的に知覚されて「呈味」として認識されているようである。これらは知見としては古くからあるが、脳科学として科学的に証明されるべきテーマであるだろう。外池教授自身もそう考えているようだった。

(取り急ぎ書いたので、後日修正・補足するかもしれない)

aromaphilia: メモ;色々な香り研究の先駆者 (外池光雄)
|書籍|(香り選書 17)匂いとヒトの脳 〈脳内の匂い情報処理〉|フレグランスジャーナル社

12/1/7 Coffret Project「香りと物語」 に飛び入りしてみる

フランスの香水のメゾン L’Artisan Parfumeur の香水を色々見せてもらいながら、調香師の目に映る世界、心の中に広がる印象を見てみましょう、というCoffret Project主催の香りのワークショップが1/7にありました。丁度j-waveを聞いていたら、主催者で代表の向田さんが番組参加してイベントを告知していたのを聞いたのです。

Coffret Projectは、「世界中の女性がより自由にそれぞれの可能性を開花させることができる世界の実現を目指して化粧を切り口に、国境や人種、言語の壁を越えて人々が喜びを分かち合う」ことをめざそうとする非営利団体のようです。Coffret Projectの活動は
1)Workshop~お化粧ワークショップ
2)Collection~化粧品の回収…日本において、あまった化粧品を1)のWorkshopに利用
を主にしているとのこと。今回のイベントも収益は活動運営資金として利用するとのこと。

自分が元々、香りに関する勉強をしたいと思った背景には、「香りが人々にイメージを引き起こさせるその作用とは何なのだろう」という疑問があったのです。このWSではラルチザンパフュームの香りを試しながら、その香りの世界を参加者でディスカッションしながら、最終的にはラルチザンパフュームのスタッフが解説してくれる、ということで面白そうだなぁ。と。

香水は色々なパートの配合で一つの作品になっています。トロピカルフルーツのイメージがし出てきたり、マグノリアやオーキッドといった花の香りが出てきたり、しっとりとしたアーシーな香りに石の古代遺跡のイメージを感じたり。その香水が漂ってきたら、どんな風景が思い浮かぶのか、食べ物や雑多な市場かもしれないし、海辺や森の中かもしれないし…。「旅先で出会った突然の雨や、一度きりの待ち合わせ場所…。旅の大切な思い出を香りのエッセンスに置き換え、物語を綴る」…ラルチザンパフュームの香りは挑戦的な香りかなと思うのですが、独自の世界を覗く事が出来て、なかなか面白かったです。

参考;
1.コスメで仕掛けるすてきなこといろいろ〜Coffret Project » 1/7 Sat. 香りと物語 vol.2
2.ラルチザンパフューム ジャポン / L'Artisan Parfumeur Japon

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特に気になった香水をちょっとメモしておきます。(勝手なことを書きます)

Nuit de Tubereuse(ニュイ・ド・チュベルーズ)~月の花~
…パリの夏の宵の初めのイメージとのことで、そう言われるとなんだか納得した感じの香調です。どうも入浴剤的な粉っぽさはクマリンとかのためだと思います、そんなに底の方が固めらていない感じで、しゅわしゅわしたサイダーのような発泡感を感じました。「官能的」という言葉が出てきていましたが、ワインで言うとフルボディではなくライトボディ、赤ワインというよりはロゼ(白というほどキリリとしていない)、脱力した色気のようなイメージなのでは?と思います。

TRAVERSEE DU BOSPHORE トラベルセ ドゥ ボスフォール― イスタンブールの空 ―
…とても面白い香調。今回見せてもらった中で、個人的には似合う人を探したくなる香りでした。エキゾチックで乳白色のイメージ(その乳白色さはキャンディ「花のくちずけ」のイメージです)。参加者の方々からは結構年配の女性に似合うという意見も出てきましたが、30代前半の男の人でも面白いのかも。淡いパステルカラーの空、もしかしたらトルコ石のような水色、時々とても不透明なピンク色にも感じる。

一番最後のコーナーは、自分の実際に行ってみたことのある・自分の想像上の土地を作文してみて、どんな香りが作れるかイメージしてみましょう、というコーナーでした。「宇宙の香り」という話とか、ギリシャで倦怠期の妻が出会ったプラトニックな恋に落ちてしまった現地の男性の匂いとか(この人の話は面白かったです)。

自分は一度だけ行ったことのある、「オーストラリアのシェルビーチ」の話を提案しました。せっかくなのでここでご紹介します。

「オーストラリア西の都市パースから北の乾燥地帯へ向かっていくと、インド洋に面したところにシェルビーチという場所があります。見渡す限り白い貝殻しかなくレンタカーを降りてその会で出来た、砂丘のような丘を歩いて海辺まで行こうとすると、貝を踏む自分たちのパリパリという足音と吹き抜けてくる風の音しか聞こえません。空は抜けるように青く、海も物凄く青く、海辺は静かな波音だけが聞こえていました。世界の果てがあるとしたら、こんなに綺麗で静かな場所なのではと思いました。」

参考;
3.ラルチザンパフューム ジャポン / L'Artisan Parfumeur Japon Nuit de Tubereuse
4.ラルチザンパフューム ジャポン / L'Artisan Parfumeur Japon TRAVERSEE DU BOSPHORE
5.シェルビーチで白い貝殻のビーチから時の流れを感じる | 西オーストラリア 秘境ガイド | カンタス航空

香気のライブラリを整備したい

簡便にライブラリという言葉を使ったが2つのライブラリを考えなくてはいけない。
• 単品ケミカルのマスパターン1
• 天然香気や実際の商品の香気のガスクロ分析結果 (香粧品・食品)
単品ケミカルのマスパターンは実際の香気の混合物にどんな成分が含まれているのかを定性分析する際に必要となる。それに加えて各成分がどれだけ含まれているのか定量分析した結果が後者の「天然香気や実際の商品の香気のガスクロ分析結果」である。後者は新しく香りを創ろうとしたときにとても参考になる。

市販のライブラリにはどんな化合物が登録されているのか。既存の市販マスパターンのライブラリにはNIST2のものとWiley3のものがある。これらのマスパターンにはどんなケミカルが含まれているのか?リスト化して、明確化、どんな重要なケミカルが不足しているのか理解しておかなければ成らない。

なかなか難しいかもしれないが、天然香気分析をやっている大学の研究室と協力して香気物質マスパターンのデータベースを取得・構築できないかと考えもする。難しいかもといったのは、香気分析にこのライブラリ整備が重要なポイントになることは「暗黙知だから」。また香気サンプルの入手ルートは困難な場合もある。そのために共有化には抵抗がある可能性も高いと考えている。

香気ライブラリーそのものに関しても自分でやるとなったら、決めておかなくてはいけないことも多い。それらも併せて考えて、必要なのは
• 香気分析方法の固定化(RTを共有化できた方が望ましい)、昇温パターンの決定、内部標準物質の選定
• 香気ライブラリの整備、さらには単品ケミカルの入手ルート確保
• 天然香気の入手
• トレンドの香気入手(香粧品・食品)、それらの入手ルートの確保
といったところか…

参考;
(マススペクトルについて)
1.マススペクトル - Wikipedia
*.Waters: 一般的なイオン化
2,3.マススペクトル検索 | アジレント・テクノロジー株式会社 
(NIST98について)
*.Amazon.co.jp: Wiley 7th Nist 98 Epa/Nih Mass Spectral Library up Grade: NIST: 洋書 *市販CD版
2.NIST 98 - NIST/EPA/NIH Mass Spectral Library - Flyer *pdf

関連投稿;
a.aromaphilia: ガスクロ(GC)に関する基礎知識的なメモ
b.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21)
c.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21) ②

CD Higherを今更買う

年初めに福袋というのも良いですが、香水を変えて心機一転、今年の自分を組み上げようというのも良いのではないかと(勝手に)思っています。モデルチェンジ前のボトルが結構安価になっていたというのが動機のひとつでしたが、もともとシャープな知性と上向きエネルギーな香調を感じられるこの香水は注目していたのでした。バシッと着けてぐいぐい仕事をしてゆこう、という訳です。

香りの勉強を始める以前、大学の研究室のころ着けたのが「インカントプールオム」でした。トップのフレッシュなシトラスからシダーやアルモワーズのようなニュアンスに繋がってゆくメンズらしさが、「仕事するぞ」という気にさせてくれたものでした。そのボトルはもう終わってしまって、その後、芯からアップ系メンズというものはなかったのです。というわけで今更ながらhigher。

メモ;色々な香り研究の先駆者 (外池光雄)

明日、フレグランスジャーナル社主催で「外池光雄」先生の一般人参加可能なセミナーがある。外池先生について軽くメモしておく。

外池光雄(TONOIKE Mitsuo)
千葉大学 大学院工学研究科 人工システム科学専攻 メディカルシステムコース 教授
1985 年静岡大学文理学部理学科物理専攻卒業,1985 年工学博士( 大阪大学).1995 年電子技術総合研究所大阪LERC 生体エレクトロニクス研究室長,2001 年産業技術総合研究所関西センター副研究ラボ長, 2007 年より現職.専門は生体医工学.著書『においと脳・行動』,『におい・香りの情報通信』など多数.

J-GLOBALより主研究テーマをメモ→「
①生体情報の解明・利用に関する研究…(視覚・聴覚の選択的注意機構に対する知見を得るために、MRI、脳波、脳磁界計測などの非侵襲的手法により、種々の感覚情報に対するヒトの脳活動を生理学的に計測・解析する。嗅覚受容器レベルにおける臭の識別能力・・・)
②生体の数理科学的解析の研究…(生体の感覚系の嗅覚・味覚では、感覚神経が不安定で新陳代謝が行われているが、認識や記憶の機能は安定して保たれている。このような生体の恒常性機能のモデル及び生物の自己組織化機能に適合した認知・行動モデルを・・・)
③生体における感覚行動相互作用に関する基礎研究…(母子間での相互情報伝達について、発達心理学と神経生理学に基づいたモデルを構築する。アクティブビジョンの神経メカニズムについて、モデル研究を継続する。)」

1.J-GLOBAL (TOP > 外池 光雄 【研究者】 )
2.J-GLOBAL - 外池 光雄 【研究者】の文献
3.(千葉大・外池光雄氏の研究室HP)
4.(特許)特開2002-300700 超音波体伝導聴覚機 独立行政法人産業技術総合研究所 他
5.(特許)特開2001-320799 体伝導聴覚機 経済産業省産業技術総合研究所長 他
  ※特許他にもあり?確認中
6.フレグランスジャーナル社|セミナー・イベント|香りの図書館「香りトワ・エ・モア」セミナー

知覚と感覚の研究 …ゲシュタルト理論や「美的」感性をちょっと調べる

心理学、特に視覚や聴覚、触覚の研究事例と実際に香りにまつわる現象の色々をあわせて考えて、対比しながら検討し、共通項を見出せないだろうか。

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そもそもこんな本を読んだときに、参考になるのではないかと思った。心理学の教科書のような本であるが…

「知覚と感性の心理学 (心理学入門コース 1)」出版社: 岩波書店 (2007/10/26) ISBN-10: 4000281119 ISBN-13: 978-4000281119 発売日: 2007/10/261

「内容(「BOOK」データベースより);私たちはどのように物事を知覚し、それをどのように感じているのか?心理学を学ぶ基礎である知覚と心理の関係を、脳科学や情報科学のアプローチも取り入れて解説。知覚との関わりが重視される感性の役割についても、浮世絵などの芸術作品を例にしてわかりやすく解説する。豊富な図版や身近な例で、心理学のみならず理学系や芸術系分野を学ぶ人にも役に立つ、入門教科書の決定版。
内容(「MARC」データベースより);私たちはどのように物事を知覚し、それをどのように感じているのか? 心理学の基礎である知覚と心理の関係を、脳科学や情報科学のアプローチも取り入れて解説。理学系や芸術系分野の人にも役立つ入門教科書の決定版。」1

知覚研究、感性研究の特徴を知り、香りの知覚、香りにおける感性の理解へと繋げてゆければ良いなぁ、と考えた。以下に数項目の気になった記事とそれに対する考察を書いてみた。

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ゲシュタルト理論2
「ゲシュタルト心理学の最も基本的な考え方は、知覚は単に対象となる物事に由来する個別的な感覚刺激によって形成されるのではなく、それら個別的な刺激には還元出来ない全体的な枠組みによって大きく規定される、というものである。ここで、全体的な枠組みにあたるものはゲシュタルト(形態)と呼ばれる。
例えば絵を見てそれが線や点の集合ではなく「りんご」であるように見える事や、映画を見て複数のコマが映写されているのではなく動きがあるように見える事は、このようなゲシュタルトの働きの重要性を考えさせられる例である。」2また、
「例えば音楽は、個々の音を聞いた時よりも大きな効果を与える。図形もまた、中途半端な線や点であっても、丸や三角などそれを見た人間がパターンを補って理解する(逆に錯覚・誤解を引き起こす原因とも言える)。
ゲシュタルト心理学は被験者の人間が感じることを整理分類して、人間の感覚構造を研究した。そのため、図形による印象などの研究が中心であった。」2

対象の見え方や特徴を数式や言語で厳密に定義することなく例を挙げて「説明する」ことの有用性をこの概念は示している。脳で行われていることを数式で明示する事だけが、刺激に対する脳の反応部位を特定する事だけが、科学的な説明であるとはいえない。と紹介されている。

もしかすると、香りの知覚もそうであるかもしれない。ある香気成分の組み合わせは、人の心に「~~の匂い」というイメージを想起させる。いくつかの要素が欠けていたとしても、「~~の匂い」というイメージを想起させる場合もある。Aという香りとBという香りを混ぜると、どちらの香りのイメージとも違うCという香りになってしまう、という現象もおきる(このような考え方は「アコード」の考え方でもある)。

例えば、バラのエッセンシャルオイルの香りをかがせて、生理現象を測定して、香りの効果を評価したり、バラの香りの主成分であるβ-フェニルエチルアルコールの匂いをかがせて脳波を測定したり…といった科学的研究がある。数値測定や厳密な効果測定のための系の単純化は、とても科学的なアプローチなのだが、そればかりに囚われる事なく、感じることを整理分類することや印象などの研究によって、感覚構造の研究が行われても良いのではないかと思った。

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そのほかにいくつも、気になる心理学の知見が紹介されている。少々羅列的になるが書いてみる。

輝度分布に基づく輪郭の抽出というものが無意識のうちになされている、また「図」になり易い特徴というものもある。また破損した画像や不完全な描画から何が写っているかが「ひらめく」という現象があるが、ひらめいた後は何度見てもすぐに答えが分かるし、思い出すまでに掛かる時間は、正規分布的になる。このとき思考の中では「補完」というものがなされる。輝度は低閾値のストロング香気成分の役割と重なるかもしれないし、不完全な調香レシピであっても、そのターゲットイメージに重なるのかもしれない。

よく、選択的意識とスキーマという問題を簡便に説明する際に「カクテルパーティ効果」3というものが引き合いに出される。とても騒がしい場所で話していても「集中して聞いている」人の話が浮かび上がって聞こえ、意味が通じるというあれである。匂いでも色々な匂いが断続的に漂ってくる(例えば)電車の中で特定の香水のイメージがふっと感じられたりするのは、それに似ているのではあるまいか?

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20世紀は知の世紀であった。ただ、科学の対象は論理的に説明する範囲にあった。それに対して、著者は21世紀は
· 知を探求する認知科学
· 感性を探求する感性科学
の両者が重要で、それらを併せてトータルな人間理解進めるべきだとしている。まずは「芸術と視覚」のような、従来の枠を出た曖昧な領域を科学の俎上に乗せようとしている。自分としては香りや嗅覚を科学の俎上に乗せたい。

参考;
1.Amazon.co.jp: 知覚と感性の心理学 (心理学入門コース 1): 三浦 佳世: 本
2.ゲシュタルト心理学 - Wikipedia
3.カクテルパーティー効果 - Wikipedia

改めて「匂いの心理学」から学ぶ

この本はT. エンゲン (著), 吉田 正昭 (翻訳)1。原著は1982年、日本語版は1990年に出されている、少々古い本である。

現在と科学的知見が異なる点もある。匂いの受容機構説に関しては、当時はたんぱく質の受容体がまだ見出されていなかったし、遺伝上そんなにまでたくさんの受容体タンパクが存在するとは想像されていなかった。現代では、匂いも科学刺激の一種であり、受容タンパクが存在することが知られている。ただ味覚とは異なり、かなり多種類の受容体たんぱく質が見出されている2(「嗅覚受容体には幅広い違いがあり、哺乳類のゲノムにはそれが1,000ほどもある。嗅覚受容体はそのゲノムの3%を占めているとされる。これらの潜在的な遺伝子のうちのほんのわずかだけが機能する嗅覚受容体を形成する。ヒトゲノム計画での解析によると、ヒトは347の機能する嗅覚受容体の遺伝子を持っている。」2)

当時主流となっていた匂いの科学的で体系的な仮説はamooreの匂いの立体化学説3であった。この仮説は匂いの質を幾つかに分類した上で、それぞれの匂い物質には特定の形があり、それぞれの形にぴったりとくる形の匂い受容体が(当時見出されてはいないが)神経細胞に存在しているのだという説だ。ちなみに当時並行して存在していた匂いの知覚に関する仮説が振動説だ4-6

なぜ、改めてこの本から学ぶことがあるのかというと、匂いの実体に関して科学がどのような仮説を立ててきたのか、そしてどのように迫ろうとしてきたのか?それらを纏め、考えを系譜化する上で、有用ではないかと考えたからである。
· 要素臭を考える
· 匂いのタイプを考える
· 匂いの受容システムを考える
生物的な機構の仮説は単独で考察されてきただけでない、これらは相互にリンクして展開してきた。いくつもの文献をリンクしながら、このような本を中心に解釈しなおしてゆけるかもしれない。

参考;
1.Amazon.co.jp: 匂いの心理学: T. エンゲン, 吉田 正昭: 本
2.嗅覚受容体 - Wikipedia
3.ジョン・アムーア - Wikipedia
4.嗅覚 受容体による分子振動感知説(嗅物質受容モデル) - あるFlyerのトリビア日記
5.匂いの帝王(ルカ・トゥリン氏の著書に関して)
6.JIBIINKOKA : Vol. 111 (2008) , No. 6 pp.475-480

関連投稿;
a.aromaphilia: 要素臭とは
b.aromaphilia: 香りディスプレイ・プロジェクト

メモ;TEAC (11/19-21) ②

TEAC学会に参加してきたので、気になった発表に関してメモしておく。(こちらの方は羅列的)

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焙煎コーヒーに関する分析で長岡香料が報告している。(1PI-7)

MSDカーブが重複する複数成分をMassフラグメンテーション解析でピーク分離し、微量ストロング成分を構造推測、類縁体合成によって、その成分単品時の香気とトータル香気への寄与について報告していた。

以前より、ピーク重複するMSD積分の解析をオートマチックで出来ないかと考えていた。

オートマチックではないが、その既知方法の一つが、このマスフラグメンテーションである。一つの成分分離が不完全となっているピークにおいて、それぞれ特定m/zのフラグメントに注目し、それぞれの物質が幾らづつ入っているのか計算できるというもの。

これに対して、全領域マスフラグメントに対して時間微分をし、フラグメントの単位時間増加を計算してやれれば、カーブが重複している場合でも容易に解釈できるはずだと思うのだが…。同種分子から発生するフラグメントであれば積分曲線のパターンは共通化する筈であるからMSD曲線としては同じ挙動を示すフラグメントに関して加算することでMSD精度を向上させる。問題はノイズの分離か…どのようにスムージングを掛けてやるのかは難しい問題になると思う。

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御茶ノ水久保田先生の研究室において米、もち米において香気成分生成要因について検討している。(1PI-10)

香気がもち米で多くなる原因について、包摂なのではないかと仮説を立て、それを実証するためにシクロデキストリン(CD)で代替実験をしている。

個人的にはもっと光学的な手法で包摂効果の確認と包摂複合体形成の定数算出をして欲しかった。それにでんぷんのへリックス内部の環境とシクロデキストリンの内部の環境がどれほど類似しているのか?錯生成のドライビングフォースは何なのか?明示できた方が良いと思った。

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明治大学理工がイオウ置換大環状ムスク様化合物の合成検討をしていた(1PIV-3)

cis二重結合をイオウ原子導入して大環状チオエーテルとすると、類似の香気で、より強力な閾値を持つ香気物質となる、という既報があるようだ。それについては全く知らなかった文献だったので読んでみたいと思った。どの程度その香気評価が正しかったのか、も気になる。可能なら、アクセスして香りを見せてもらったら良いと思う。

(とりあえず以上。また特筆事項思い出したらupするようにします)