ヨコミゾ氏+上田さんの”白い闇”

上田さんの今回の作品は建築家の方とのコラボレーションとなっている。そもそも定期的にオカムラが、先進的でアーティスティックな展示を彼らのショールームの中に設置しているようで、今回は11回目なのだそうだ。東京理科大学の教授である川向氏が、この展示の担当者を探し、その人に依頼をして展示を作ってもらう、という展示である。

今回は建築家でもあり、東京芸術大学でも教えるヨコミゾ氏がデザインスペースを引き受け、その協働者として上田さんを指名した。

ヨコミゾ氏の建築はRをつけた建築空間に特徴がある。自分は建築については専門ではないので、詳細は今回の展示のパンフレットや建築系の紹介サイトを参照していただきたいが、一連の作品でポイントとなっているのは、Rをつけた空間による異空間に居るような感覚である。これまでの建築空間は面と面が直行しているので、それが感覚的に「建築空間内に居る」と言う感覚を与える。Rをつけた空間は、距離感が不明瞭になり、視覚に頼れないような感覚を与え、他の感覚を冴えさせざるを得ないような感覚を与える。瞑想室ともなりうる、と言うのにも頷ける。そんな視覚的なシャットアウト感と香り演出を併せることで、より鮮明な香り体験ができないか、というのが今回のヨコミゾ氏の狙いだ。香り体験を視覚のシャットアウト感で増幅することができれば、新しい感覚を体験できる作品になる。これが今回の「白い闇」の作品コンセプトである。

結果としては人の場認識はかなり視覚情報に頼っているので、そのRをつけた空間の無限感のために不安を感じてしまう人が多かったことだ。またもう一つ問題があり、視覚がプライマリーな場認識だとすれば、セカンダリな場認識として人は聴覚、次に手で触っての認識(触覚)に頼ろうとし、なかなか嗅覚にフォーカスしてもらいにくかったかも知れない(それもあってか上田さんは、「犬の様に嗅ぐ」と言うサブタイトルのとおり、「嗅覚の知覚にたいする集中力」をテーマにしたワークショップを行った)。

ただ、個人的に良かったと思うのは、香りによる演出は異空間感を高められることが分かった。親しみのある香りを選んだとしても、面白い展示になったであろうし、あまり親しみのない香りを選んだとしてもそれなりに空間を彩ることになるのではないか、と思えた。香りにもソフトな・ハードな、ザラッとした・なめらかな、暖かい・冷たい、といった共通感覚が感じる程度の差こそあれ存在する。それらを上手に配することで香りの空間演出ができるのではないか、と自分は思った。

おまけ。ワークショップにも参加させてもらった。ワークショップでは目隠しした状態で、他者に匂いを感じる点を動かしてもらったり、扇で仰いでもらったりして、その匂いの動きを感じてもらう。一つ分かったのが、匂いは輪郭のわかりやすい物と、そうでもない物があるということだった。輪郭のわかりやすさはオレンジがもっともわかりやすく、次いでアガー、もっとも判り難い物がマリン調の合成香料caloneであった。caloneは感じにくく、疲れやすく、香りがなくなってもまだ香っているかのような錯覚を持ちやすい。この感覚は改めて感じると面白かった。実は調香の感覚が、香りの輪郭を整える、とか焦点を合わせる、とか角張っていた物を組み合わせて綺麗な形に整える、と言う感覚を伴うものであるような気がしていた。今回の天然の香気と合成香料の感じ方の違いが、その調香の感覚と重なった様に思えて不思議な発見だった。

オカムラデザインスペースR 第11回企画展
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