(研究テーマ) 生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する1/3

『要素臭(の開発)』というテーマを当初立ち上げていた。考えていることが大きく変わったわけではないのだが、より同業者にとって正確に自分の研究内容が伝わるような表現、『生体における香りのコーディングを解析し、香りの近似技術を確立する』と言う言葉、で研究を推進したいと思っており、そちらをなるべく使用するようにする。もちろん実際には一長一短である。当初掲げていた言葉はとても解りやすく、名刺などに書いておいても結構目に止めてもらいやすかった。ながったるい表現は同業者にしてみれば妥当な名前の付け方であるだろうけれども、全くの一般の方にとってはとても解りにくい言葉だ。2回に分けて本テーマについて説明をする。一つ(本稿)はNMF法など使用している数学的・情報工学的な手法に関する事柄をまとめる。

(一般に知られている香りの科学について) 香りは香気物質、つまり揮発性の主に有機化合物の混合物である。香りのコーディングが分かるという事はその香りの構造をとらえるという事である。だが香り の構造を人が感じているように捉えることは、その混合物の化合物混合比率を測定する事とは異なる。ヒトをはじめ、生物が香りをとらえるとき、単純な濃度ではない、香りの濃度に対する、生体応答を見せる。とある化合物に対しては敏感だが、別の物質には鈍感だったりする。それは既存の研究においては閾値という 言葉で表されてきた。なお、一部の化合物については、人間の感覚器でガスクロマトグラフよりも鋭敏に検出される。そのため現状のセンサー系の検出能力のままヒトの嗅覚系を再現するのは困難であると考えられる。

(香りを情報としてとらえると) 核にある考え方は、「ダイレクトな物理量(どんな化学種があり、それぞれの濃度はどれくらいなのだというような)としての香りの情報を使用していては、香りの近似技術を達成させることはできない」と言う考え方である。嗅覚受容系によって、とある香気は特定のコーディングを受ける。香りは空間の中に特定の位置にマッピングされる。これは香りの物理情報をある意味空間において解釈し直したような形になっていると考えられる。従って、香りの近似技術においても、物理量を直接反映したような機械的な定量に沿うのではなく、生体の嗅覚系によってなされるコーディングに合うように香りを要素系への分解をしなくてはいけない、と考えている。

(香りの基底あるいは要素臭) 基底(互いに生体の嗅覚コーディング上において直行するような基底)を要素とし、香りを要素の足し合わせとして表現する。これはその香りのレシピのようなものであり、要素をレシピどおりに混ぜ、ターゲット香気と同じ印象の(近似した)匂いを作成する。香りデータの分解、要素系の確立のためには、様々な香りの生体による受容をデータベース化し、主成分分析(PCA)やNMFなどを適用することが有用だと考えられる。この際、得られた元々のデータは非線形であると考えられるし、各データベクトル中の要素の重みが同じであるとは限らない。この問題は、非リニアな距離演算の適用やカーネル関数の導入が有効であると考えられる(もっと他の数学的手法もあるのかもしれない、要調査)1。

(研究室での検討内容) 現状、NMF法で検討する。距離演算に関しては中本研でこれまでに検討された内容を継承する。今のところ3種類の距離演算を実装し、検討しているが その他の距離演算方法、また発散しやすいと考えられる距離演算(特にIS)については数学的な手法を利用した発散回避方法(候補関数βダイバージェンス) を検討する2。

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