バラの香り その②

学校の絡みでバラに関して纏めたので転記しておく。

植物としてのバラに関して
バラ属の植物は、灌木、低木、または木本性のつる植物で、葉や茎に棘があるものが多い。葉は1回奇数羽状複葉。花は5枚の花びらと多数の雄蘂を持つ(ただし、園芸種では大部分が八重咲きである)。北半球の温帯域に広く自生しているが、チベット周辺、中国の雲南省からミャンマーにかけてが主産地でここから中近東、ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。南半球にはバラは自生していない。世界に約120種がある。

ばらの原種が地球上に誕生して以来、この原種の自然交雑から200余種の野生ばらが誕生したと考えられている。園芸植物となっているのは、主として次の野生種8種を先祖とし、それらの交配等で生まれたものである1)。この栽培ばらでの交配が重ねられ、オールドローズが生まれた。オールドローズは一季咲き性だが、花形だけでなく芳醇な香りを持つものも多くみられた。18世紀末に中国原産の四季咲き性のばらがイギリスに導入され、ヨーロッパ・アメリカさらに中近東にも広がり、ばらの園芸化がすすんだ。

約2000年前には早くもばらの栽培が始まっていたが、1867年に現在ある園芸品種ばら作出の基礎となったモダンローズ(現代ばら)が生み出され(1837年という説もある)、その後ハイブリットティー ローズ、フロリバンダ ローズ、ミニアチュアローズ、クライミング(つる性)ローズ等の園芸品種が出現した。モダンローズの中でも特に芳香性の強いハイブリット ティーローズなどの香りが6種類に分類されている2)

現在では鑑賞用として栽培されることが圧倒的に多いが、他にもダマスクローズの花弁から精油を抽出した「ローズオイル」は、香水の原料やアロマセラピーに用いられる。 花弁を蒸留して得られる液体「ローズウォーター」は、中東やインドなどでデザートの香りづけに用いられる。 また、乾燥した花弁はガラムマサラに調合したり、ペルシャ料理では薬味として用いる。 日本では農薬のかかっていない花弁をエディブル・フラワーとして生食したり、花びらや実をジャムや砂糖漬けに加工したり、乾燥させてハーブティーとして飲用することもある。

バラの香りと系譜図2), a)
新潟県長岡市 越後公園管理センターによると栽培品種の香りは次の6種類の香りに分類できる。

* ブルーの香り
ブルーの花色を持つ青ばら系の品種のほとんどが、この香りをもっています。この香りは主としてダマスク-モダンの香り成分とティーの香り成分が混在し、他にはない独特な香りを形成しています。(ブルーの香りをもつ代表的なばら;ブルー ムーン、ブルー パーフューム、シャルル ドゥ ゴール、ブルー ライト)

* ダマスク-クラシックの香り
皆さんが知っている、いわゆるばらの香りといえばこの古典的な香りでしょう。強い甘さと華やかさやコクを合わせ持っていて、心を酔わせる香りです。現代ばらには典型品種が意外と少なく、ティーやフルーティーの香りがやや強く出る傾向があります。(ダマスククラシックの香りをもつ代表的なばら;芳純、香久山、グラナダ、香貴)

* ティーの香り
ダマスク系の香りとは全く異なる特有の香り成分を含有しています。香り立ちは中程度ですが、上品で優雅な印象を与えます。現代ばらの品種に最も多くある香りです。ハイブリットティーローズの多くには量の多少はあるものの、このタイプの香り成分を含有しています。(ティーの香りをもつ代表的なばら;ガーデン パーティー、ディオラマ、秋月、天津乙女)

* ダマスク-モダンの香り
ダマスク-クラシックの香りを受け継ぎながら、香り立ちは強くより情熱的で洗練された香りです。ダマスク-クラシックとは含有する成分のバランスが異なっているために香りの質も違って感じられます。比べてお楽しみ下さい。(ダマスク-モダンの香りをもつ代表的なばら;パパ メイアン、レディラック、シャルル マルラン、マーガレット メリル)

* フルーティーの香り
ダマスク系およびダマスク系の香りが変化した成分が多く含まれ、さらにティー系の特徴成分がいろいろなバランスで混在した香りを持つことが特徴です。ピーチのような香りや、アプリコット、アップルなどの新鮮な果実の香りが想起される香りです。(フルーティーの香りをもつ代表的なばら、ダブル ディライト、フリージア、マリア カラス、ドフト ゴールド)

* スパイシーの香り
ダマスク-クラシックの香りが基調ですが、丁字(クローブ)ようの香りがやや強く感じられスパイシーな香りが特徴です。(スパイシーの香りをもつ代表的なばら;粉粧楼、デンティーベス、ロサ ルゴサ、ロサ ルゴサ アルバ)

香粧品にとってのバラの香り
花の香り、その製油の香りは植物の品種、生産地(テロワールのようなものと考えても良い)にかなり依存しており、生花店に流通しているローズは、香料におけるバラの香りとは異なる匂いである。仮に栽培品種を大量に集めて精油抽出しても同じ香気のオイルは得られないだろう。生花店にて売られているバラは品種交配によって痛みにくく、望みの色の大振りの花を咲かせるように品種改良されている。鉢植えのものでも、四季咲き性(季節を問わず花が咲く性質)を持たせたりされている。香料における典型的なバラの香りとは、ブルガリアで栽培されているダマスクスローズの香りである3)

誰もが認める典型的な天然香料原料は、
① ブルガリア(またはトルコ)産のRosa damascenaの花弁から水蒸気蒸留によって得られるRose oil (Otto oil, Rose ottoという名前で呼ばれることもある)
② モロッコ(またはエジプト)産のRosa centifoliaの花弁から溶剤抽出によって得られるRose absolute
である3)

大昔からローズは高級の代名詞である。香水の骨格において調香上の重要なポイントになることが多く、高級な香粧品においてローズの香りがポイントになることも多い。バラの香りは香粧品業界では王様ような、別格の存在である。だが、現在においては天然単品香料を安定的に入手するのは困難であるし、原材料費も高価になってしまう。特にバラに関しては採油率が低いこともあって、天然原料は高級である。そのために良いベースコンパウンドを開発することが古くから求められてきたといえる。

既存で優秀なベースコンパウンドには
· Rose VE
· Rose 1611
· Rose 61
· Wardia
などがある。

バラの香りと香気分析、微量ストロング素材b)
ローズの(生花の)香気分析もコンスタントに続けられており、フレグランスジャーナルのような香粧品雑誌にも定期的な研究成果の報告がなされていたりする。たとえばローズオイルからは微量成分として多くの合硫化合物が発見されている。ローズ調香においては微量香気成分がキーノートになっている場合もおおく、たとえばローズのトップ感を引き立てるのに有用な特徴成分として2-メチルチアゾールが発見されている。関値は0.1ppmを示し,フローラルなグリーン調の香りにほのかなフルーティー香気を有すとされる4)。安全性.環境問題などから,香料の使用規制問題もきびしくなり、新規香料素材においても,安全性の基準や開発コストの観点などから汎用香料の開発はハードルが高くなりつつある。そのような観点から,個性的で閥値も低く強力な匂いを持つ香料化合物を,極小量使用して差別化を行うという考え方もトレンドになりつつある。今後新素材開発においても,小量ストロングの香料物質の開発研究が今まで以上に盛んになると思われる。

ローズ調香は精密香気分析とストロング単品香料の精密使用の最先端の舞台であると思われる。今後も精密香気分析や新規素材の動向に注意を払う必要があると考えている。

参考
1. バラ - Wikipedia
2. ばらの香りと系譜図|国営越後丘陵公園(新潟県長岡市宮本東方町字中山1921-2 越後公園管理センター HP)
3. 香りの百科 日本香料協会 朝倉書店 p.453
4. サルファーケミカルズのフロンティア, 中山重蔵, 山本健(他), シーエムシー出版(2007) (特に含硫黄有機化合物に関して纏められている)

a. aromaphilia: バラの香り
b. aromaphilia: 硫黄の匂い、「サルファーケミカルズのフロンティア(CMC 2007年3月)」

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