ヘンリー・ダーガー展 覗き見をしても良いのか

ヘンリー・ダーガー展1,2)に行ってみた。基礎知識をwikipediaより以下に。

「ヘンリー・ダーガー(Henry Darger, 1892年4月12日 - 1973年4月13日)は『非現実の王国で』の作者である。…誰に見せることもなく半世紀以上書き続けたが、死後にそれが発見されアウトサイダー・アートの代表的な作家として評価されるようになった。彼の作品(物語・自伝・絵画)に関しては、ジェシカ・ユー監督の映画「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」で一部を確認することができる。…」3)

「『非現実の王国で』(ひげんじつのおうこくで、In The Realms of the Unreal)、正式には『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』は、ヘンリー・ダーガーによる物語である。アウトサイダー・アートの代表例とされる作品…」4)

新書「キュレーターの時代」5-7)でも「キュレーターが彼の作品を美術界に紹介したことでアウトサイダー・アートという重要な潮流を生み出した」と、名前が挙がっていた。

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ヘンリー・ダーガーは他者に見せるため、ひいてはその作品を通じて他者とコミュニケートするために作品を作成していたわけではなかった、と僕はこの展覧会を見て改めて痛感した。赤の他人である自分が、彼の作品を見ているという状況自体が彼の意図ではなかったと思う。様々なヘンリー・ダーガーの研究によると、彼自身は他者と現実の世界ではコミュニケートする人間ではなかったようだ。彼の作品を自分なりに見てみた結果は、「現実世界からの彼のための抽出物」、「彼の憧れと欲望と正義と戦い」……。ヘンリー・ダーガーは、外部からの刺激を自己の中で消化するために、自分の中で彼自身の正義と自尊心と破壊衝動を調和させるために書(描)いた。その目的が達せられた結果、それらの作品はアパートに残されたのではないだろうか?彼は社会という次元で言えばアウトサイダーだったし(文字通り社会生活を送れている/送れていないの境目に生きていたのではあるまいか?)、作品は彼を中心に捉えれば完全に彼のインサイドへ向けられたものだった。

絵を見ていて共感する・共感しないという次元ではなく、心理学的に解析してしまっている自分が居る。しかし自分は心理学者でもなく、精神科医でもない。彼も彼を取り巻く人々も、ヘンリー・ダーガーを診察させたり、矯正させたりしたいと思っているわけでもない。ものすごい違和感を感じた。端的に言って、覗き見なのではないだろうか?と。

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新書「キュレーターの時代」では、これからの時代はインターネットによるエンドユーザーtoエンドユーザーの関係の深化によって、人々の中に眠っているアウトサイダーな作品たちをキュレートするのが重要な潮流になると結論している。

だがこの動きにも自分は共感しない。アート作品が力を持つわけではなく、アーティストが力を持つわけでもなく、紹介者が力を持つ状況とはどうなの?と思っている。プロフェッショナルなキュレーターであればまだしも、アートにそこまで芸術は個人個人が作成したり、共感したりするべきものなのではないだろうか?第三者が絡んで行き、大きなムーブメントを仕掛けるのは本来の芸術から遠いし、審美眼とは相容れないのではないだろうか。

そもそも芸術に限らず作品には2つの特性があると思う。周囲に向けた発信と、自分の中で何らかのものを練り上げる過程だ。周囲に向けた発信とは、他人の欲しているものを発信する、他者に自分の理解させたいことを発信する、自分と他者が共有・共感できるコト・モノ・感覚を発信する、といった内容だ。自分に向けた発信とは、外界の刺激を自分の中で解釈する行為、何らかの出来事を消化する、あるいは特に自分に必要なものを抽出する行為、といった内容だ(もちろん自分の欲求を満たすための自慰行為てきなものも含まれる)。そんな自分に向けた発信を、露出狂でもない人間の自己に向けた発信を覗き見てしまっても良いのだろうか? (続く)

参考
1.TAB イベント - ヘンリー・ダーガー 展
2.基本情報・アクセス|ラフォーレミュージアム原宿 イベント情報|ヘンリー・ダーガー展~アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』|株式会社ラップネット
3.ヘンリー・ダーガー - Wikipedia
4.非現実の王国で - Wikipedia
5.Amazon.co.jp: キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書): 佐々木 俊尚: 本
6.キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書) - はてなキーワード
7.佐々木俊尚公式サイト

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