ヘンリー・ダーガー展 「承認ゲーム」、ガラクタ、キュレーション①

現代という時代、特に日本を始めとする先進国において、「社会とコミュニケートできている/社会とコミュニケートできていない」の境界は更に低いレベルのものになっているように思う。インターネットの発達により、以前ほどの量の社会的コミュニケーションを取らなくても必要な物資は入手可能になってきており、インターネットの発達により、同系統のタイプの人間同士での共感が容易になった結果、共感できない他者とのコミュニケーションを避けても短期的には問題が無い状態になった。そして自由であること、多様性があることへの手放しでの礼賛。この結果、「社会とコミュニケートできている/社会とコミュニケートできていない」の境界は更に低いレベルのものになっている。

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ブログ「情報考学 Passion For The Future」1)では新書「「認められたい」の正体 ― 承認不安の時代」2,3)の内容に関して

「著者は、価値ある行為を行う、それに対して、他者から承認を受ける。この基本ルールが人間の成長につながっていたという。子供はまず親による親和的他者の承認から価値を学び、やがて仲間や学校における集団的価値を学び、社会一般の価値を学んでいく。そして人間関係が広がるにつれて「一般的他者の視点」を身につけて成熟した社会人となる。

だが現代では見知らぬ他者の承認を意識から排除して、身近な人々の言動ばかりを気にする。ソーシャルネットワークの内側に閉じこもることが容易になっていることもあるだろう。インターネットは世界と向き合うこともできるが、逆に仲間内に閉じこもることもできる。著者は、「価値ある行為」よりも、内輪の空気を読むコミュニケーションに終始する「空虚な承認ゲーム」の時代になった、と現代を定義している。「個人の自由」と「社会の承認」の葛藤ではなく、「個人の自由」と「身近な人間の承認」の葛藤。価値観の相対化という時代の波のなかで、多くの人が自己価値を確認する参照枠を失い、自己価値への直接的な他者の承認を渇望している。

著者は、道徳的価値(「努力」「やさしさ」「勇気」「忍耐力」「ユーモア」)を足がかりに一般的他者の視点へと至る道が重要、と提言している。」

と纏め、反面、

「この問題、あまり心配するようなことではないのかもしれないとも思う。優しい関係を大切にするようになったことは悪いことではないし、これに対する反動が昨今の若手の社会起業家活動の背景にあるようにも思える。

若者の価値観の多様化と普遍的価値観の喪失を嘆くのは、自分たちの声が届かなくなることに対する古い権威たちの嘆きだともいえるだろう。」
としている。

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現代という時代において、プロフェッショナルの作品よりも、内輪で楽しむためのアマチュア作品、従来は価値を見出されていなかった分野での作品つくりにより強くスポットライトが当てられているように思う。自分のために創作する、他者に見せるためではない作品作り。作品つくりの手法もだんだん変わっていく。従来の見方で測れば完成度や成熟度が足りなかったり、全く文法が違うために理解に苦しむ完成度、洗練度を持ったりしている。そしてそれらは大概、一般の人々に受け入れられるような紹介文は付いていない。ガラクタ?混沌化が進み、バルクの情報ばかりが増大しているかに見える。

そのような状況であればこそ、プロ・アマの境界の薄くなった広大な作品群に対してそれらを整理、体系化、そして一般にも理解されることを促進するためにキュレーション4)が重要なポジションになっている。そしてこの流れはアートの重心をシフトさせていくことにも繋がる。今までのプロフェッショナルばかりでは誕生してこないであろうアートが生み出される可能性もある。
「価値ある行為」よりも、内輪の空気を読むコミュニケーションに終始する「空虚な承認ゲーム」を生んでいるのも現代なら、新たな作品とキュレーターを生み、時代のクリエートを強力に推進するのも現代なのかもしれない。(続く)

参考
1.「認められたい」の正体 ― 承認不安の時代 - 情報考学 Passion For The Future
2.Amazon.co.jp: 「認められたい」の正体 ― 承認不安の時代 (講談社現代新書): 山竹 伸二: 本
3.山竹伸二の心理学サイト | 臨床心理学,精神分析,心理療法,カウンセリング,哲学
4.Amazon.co.jp: キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書): 佐々木 俊尚: 本

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