改めて「匂いの心理学」から学ぶ

この本はT. エンゲン (著), 吉田 正昭 (翻訳)1。原著は1982年、日本語版は1990年に出されている、少々古い本である。

現在と科学的知見が異なる点もある。匂いの受容機構説に関しては、当時はたんぱく質の受容体がまだ見出されていなかったし、遺伝上そんなにまでたくさんの受容体タンパクが存在するとは想像されていなかった。現代では、匂いも科学刺激の一種であり、受容タンパクが存在することが知られている。ただ味覚とは異なり、かなり多種類の受容体たんぱく質が見出されている2(「嗅覚受容体には幅広い違いがあり、哺乳類のゲノムにはそれが1,000ほどもある。嗅覚受容体はそのゲノムの3%を占めているとされる。これらの潜在的な遺伝子のうちのほんのわずかだけが機能する嗅覚受容体を形成する。ヒトゲノム計画での解析によると、ヒトは347の機能する嗅覚受容体の遺伝子を持っている。」2)

当時主流となっていた匂いの科学的で体系的な仮説はamooreの匂いの立体化学説3であった。この仮説は匂いの質を幾つかに分類した上で、それぞれの匂い物質には特定の形があり、それぞれの形にぴったりとくる形の匂い受容体が(当時見出されてはいないが)神経細胞に存在しているのだという説だ。ちなみに当時並行して存在していた匂いの知覚に関する仮説が振動説だ4-6

なぜ、改めてこの本から学ぶことがあるのかというと、匂いの実体に関して科学がどのような仮説を立ててきたのか、そしてどのように迫ろうとしてきたのか?それらを纏め、考えを系譜化する上で、有用ではないかと考えたからである。
· 要素臭を考える
· 匂いのタイプを考える
· 匂いの受容システムを考える
生物的な機構の仮説は単独で考察されてきただけでない、これらは相互にリンクして展開してきた。いくつもの文献をリンクしながら、このような本を中心に解釈しなおしてゆけるかもしれない。

参考;
1.Amazon.co.jp: 匂いの心理学: T. エンゲン, 吉田 正昭: 本
2.嗅覚受容体 - Wikipedia
3.ジョン・アムーア - Wikipedia
4.嗅覚 受容体による分子振動感知説(嗅物質受容モデル) - あるFlyerのトリビア日記
5.匂いの帝王(ルカ・トゥリン氏の著書に関して)
6.JIBIINKOKA : Vol. 111 (2008) , No. 6 pp.475-480

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