11/12/12外池光雄「最近の脳研究から匂いの脳活動はどこまで解明されたか」

香りの図書館「香りトワ・エ・モア」セミナーでこのテーマの一般セミナーが開催された。元来興味を持っていたので聞いてみた。メモをアップしようと以前より考えていたので転記しておく。

脳科学はかつて動物生理学的、神経生理学、電気生理学といった侵襲的な研究手法がとられていたが、近年になって脳電位・脳波、近赤外光を用いた光レコーディング、脳磁場といった非侵襲的な研究方法がメジャーになってきた。脳が働いているとき、どの部分が活動しているのか明らかになってきて、脳モデルのシュミレーションもなされるようになってきた。

嗅覚に関する研究は遅れてはいたが、だいぶ脳のどの部分が活動しているのか、どのような情報信号のルートを経るのかが明らかになってきた。ポイントとなるのは嗅覚は古い脳と強く関係していること。脳の進化は爬虫類の脳→旧哺乳類の脳→新哺乳類の脳に大まかに分けられ、受け持っている機能が異なっている。多くの感覚はほとんどが旧哺乳類の脳である帯状回にあるが、嗅覚に関して嗅覚細胞で知覚された信号は爬虫類の脳に作用するのである。嗅覚が他の五感と異なる点として以下の特徴が挙げられる
• 匂いの記憶は五感の中で非常に長く残る(プルースト効果)、幼い頃の匂いの記憶は残っている
• 匂いに対する脳反応は早い
• その匂いを嗅ぐまでに嗅いだことのある匂い(記憶にある場合なら)海馬が反応する

今後、重要になっていくであろう研究テーマとしては「脳内の五感情報統合機構の研究」が挙げられた。匂いと画像の同時刺激に対する反応が調べられたり、学生とトレーニングを受けた調香師での脳波の比較をすると「知っている匂い」を知覚したときの海馬の反応が異なっており「経験があれば同じ匂いでも脳の反応は異なるのだ」ということが報告された。匂いの知覚は、まず嗅覚細胞から嗅球・糸球体まで神経軸策が伸びており、そこで知覚される。嗅覚細胞の受容体は遺伝子上は1000種類ほどは存在することが可能と考えられている。ただし、これは休眠遺伝子も含まれているため、発現するのは300種類くらいであろうと考えられている。実際の匂いの知覚はこれらから発せられる嗅覚信号を再統合して知覚していると考えられるのである。

また、嗅覚信号は他の五感と再統合して知覚される事で、別の印象になっていると考えられる。例えば、食事しているとき口腔内から立ち上る食品の匂いを、喉の奥から鼻まで繋がったルートから嗅いでいる。これはレトロネイザル嗅覚と呼ばれるが、鼻から直接嗅ぐ匂いとは別物として知覚されているようである。加えて五味の味覚や歯触りや温かさといった触覚と複合的に知覚されて「呈味」として認識されているようである。これらは知見としては古くからあるが、脳科学として科学的に証明されるべきテーマであるだろう。外池教授自身もそう考えているようだった。

(取り急ぎ書いたので、後日修正・補足するかもしれない)

aromaphilia: メモ;色々な香り研究の先駆者 (外池光雄)
|書籍|(香り選書 17)匂いとヒトの脳 〈脳内の匂い情報処理〉|フレグランスジャーナル社

コメントを残す