フレーバークリエーション

博士課程志願のからみでスライドを準備した。結局のところ、香りを作るとは何なのか?それを説明する必要があった。その際考察して準備した内容に関して転記しておく。

フレーバーの処方作りにおいては、「創造」という言葉よりは、天然物の「模倣」という言葉がふさわしいと思う、アイディアを盛り込んで美味しさを追及する面ももちろん重要なので「クリエーション」・「創作」という言葉が相応しいのではないだろうか。

フレーバーとは「食品の香り、味、食感など口に入れた時に生じる感覚をまとめていう言葉。香味。」のこと。香料としては食品に用いる香料を指す。飲料用、製菓用(キャンデー、チューインガム、クッキーなど)、乳製品(クリームやマーガリンなど)、セイボリー(調味食品用;スナック類の味付け等)。他にも一般には知られることは少ないが、「たばこ用」や「飼料用」においても香料が用いられており、これらも「フレーバー」の範疇になる。

フレーバークリエーションにおいては、現実の食品をターゲットとしていて、リアリティある再現を狙う。フレーバークリエーションにおいて使う香料原料としては以下のものがある。
・脂肪族カルボン酸
・エステル
・ボディノート(ラクトン、フローラル、スィート)
・匂い自体は弱いが、味に効く原料

フレグランスでは酸・エステルを極微量しか用いないが、フレーバー用途の香料は、酸・エステルをかなり用いる。天然に見出されている化合物を用いて香料は構成される。反面、フレグランスには非天然合成香料が使用可能、特殊なグリーンノートやムスクやアンバーやウッディ素材が用いられる。

フレーバーにおいては直接食品から立ち上る香りだけではなく、レトロネイザル香気(咀嚼時のどの奥から中を通ってくる香気)が重要である。

フレグランスが、肌に残る残香も良い香りである必要があるのとは対照的に、フレーバーは口腔中において一気に現れ香味を演出する必要がある。フレグランス用途の香料には保留効果の高いラストノートを用いる。これに対してフレーバーではラストノートを多くしすぎてしまうと、味がくどくなってしまうので、フレグランス的な区分けで言うトップノートやミドルノート位の揮発性を持つ香料が用いられる。

フレーバークリエーションの作成時のイメージとしては
・強い香料でしっかりした骨格を作る
・枝葉の装飾は、しっかりした骨格を作ってからつける
・軸がしっかりした強い特性を持った調合香料
→調合ベースとして用いることが出来る

フレーバークリエーションにおいては香気分析がかなり重要なインフォメーションを与える。しかし実際の香気寄与が低いにもかかわらず大量に含まれている“バルク”の香気成分ばかりを用いると、香料としての“力価”の低い香料しか得られない。フレーバークリエーションにおいては低閾値ストロング成分、重要な寄与を与える成分を、中心に考える必要がある。強い成分は誇張しつつ、バランスは損なわれず、バルク成分を違和感なく削ぎ落としたコンパウンドを得る方向というものが、望ましいフレーバークリエーションである。強く、寄与も大きい香気成分で骨格を作った上で特徴を作り出す枝葉をつけ、肉付けを調製して行く、というのが官能評価を交えたフレーバークリエーションの実際作業になる。

フレーバークリエーションを行ってゆくと、ベース作成というものに行き着く。同じテーマであっても、○○タイプ、△△タイプというように細分化されたテーマとして追及しておき、その後それぞれのベースのバランス調整でいろいろなオーダーに対応することが可能となる。例えば、フルーツでもあくの強いタイプ、グリーンノートの強いタイプ、発酵感・完熟感を追及したタイプ、加熱調理したタイプ…というように色々準備しておけば様々なオーダーに対応が可能だ。またベースを利用すると、香料がイミテーションされにくい、という性質もある。

微量ストロング成分については、分析化学的に進歩してきたところと言える。分析技術の進展で見出される、微量ストロング成分を合成(製造)し、よりリアリティある香気を再現する。従来の分析ではなかなか見つけることが出来なかった低閾値ストロング成分が新たに見出されることで、よりリアリティある香気開発が可能になる(その低閾値成分を盛り込んだ力価の高い香料開発が出来ているかは、また別の問題だが)。

*微量ストロング成分以前の技術としては酵素処理フレーバーのような呈味と匂いの間くらいの香気(レトロネイザル香気に利く香気)開発が重要であった時期もある

1.Flavor Creation, 2nd Edition現物内容確認していないが、この本に上記大概の内容載っていると思う

a.aromaphilia: メモ;TEAC (11/19-21)
b.aromaphilia: 「香り〈それはどのようにして生成されるのか〉」蟹沢 恒好 (フレグランスジャーナル社2010年10月)

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